【ネタバレ感想】「独立器官」「シェエラザード」 著:村上春樹(むらかみはるき)
2022/05/05
カテゴリー:小説
概要
このページでは「女のいない男たち」という短編集に収録された2つのお話、「独立器官」「シェエラザード」のネタバレ感想をしています!
この前のお話、「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」のネタバレ記事も書いてますのでそちらも是非ご覧ください!
今回は、複数の女性と関係をもつ美容整形外科医が52歳にして初めて恋をするという話と、週に2度家にやってきて奇妙な話を聞かせる専業主婦の話となっています。
目次
独立器官
登場人物
・渡会(とかい)医師…52歳で美容整形外科の院長をしている。
・僕…渡会医師とジムで知り合い仲良くなる。
・後藤…渡会医師の男性秘書。
渡会医師
渡会(とかい)医師は52歳でこれまで結婚したことはありませんでした。美容整形外科医をしていて、女性と知り合う機会は多いようです。
しかし、結婚して家庭を持つということを望まず、選ぶ相手はいつも人妻か本命の恋人を持つ女性たちばかりでした。
彼は会話を楽しむこと自体が喜びで、相手の容貌よりは頭の回転やユーモアのセンスで女性を選んでいました。
渡会医師は人当たりも良く、経営するクリニックは繁盛していました。
そのクリニックには彼のために働く優秀な男性秘書がいて、女性たちと会うスケジュールまで彼が管理していました。
その秘書はゲイで、秘書とも渡会は関係を持っていました。
初めての恋
ある時、渡会医師は思いもよらず深い恋に落ちてしまいます。相手は16歳したで結婚していて、子供もいました。
僕と渡会医師は近所のジムで知り合い、彼はその恋をしてしまった相手のことを相談します。
彼女と関係を持つようになったのは1年半前のことで、彼女の主人が浮気をしたことがきっかけで渡会医師と交際するようになったそう。
彼女と会えるのは主人が長い出張に出ているときだけで、何週間も会えなくなると精神的にかなり堪えると語ります。
僕は渡会医師にそれが恋なのだと伝え、世間一般でよくみられる感情なのだと言います。渡会医師は深く考え込んでしまいました。
その後、渡会医師はジムに姿を見せなくなり、2か月がたちます。
突然の知らせ
ある時、渡会医師の秘書の後藤から彼は亡くなったという連絡が入ります。後藤は渡すよう言われたものがあるから会いたいと言います。
カフェで僕と後藤は待ち合わせをします。後藤はとても急な、そして時間のかかる亡くなり方だったと医師の死を語ります。
はじめ、渡会医師は昼食をとらなくなり、ジム通いもやめてしまったといいます。身なりもだらしらくなり、女性と交際することもなくなってきました。
後藤は何度も渡会医師に理由を尋ねますが、ほとんど口さえきいてもらえなかったそう。
クリニックに姿を見せなくなったので、後藤が家に訪ねていくと、ひどいにおいの中ベッドに横たわっていました。
一応呼吸はしていて、部屋を片付け、医者を呼んで診察をしてもらいました。渡会医師は生きたままミイラになったようで、身体器官だけ独立して生きているようでした。
結末
どうやら恋煩いで拒食症の症状が出ていたようでした。後藤は毎日医師のところへ行き、業務上の報告や世間話をしますが、反応はないようです。
なんとか医師の恋の相手を呼ぼうと連絡を取ると、彼女は夫と子供を残して他の男のところへ行っていたようでした。
どうやら渡会医師からかなりのお金を巻き上げていたようで、夫でもなく渡会医師でもない第3の男と駆け落ちしたようです。
後藤は恋するあまり食事が通らずそのまま命を落とした人間なんて聞いたことがないと涙を流します。彼はスカッシュのラケットを僕に渡し、これが渡すよう言われたものだと言います。
シェエラザード
登場人物
・羽原(はばら)…週に2度シェエラザードの話を聞く。家から出ることができない。
・シェエラザード…35歳の専業主婦。夫も子供もいるが羽原と関係を持つ。
羽原と彼女の関係
彼女は羽原(はばら)と一度性交するたびに不思議な話をしてくれました。
羽原は彼女を「千夜一夜物語」の王妃シェエラザードとあだ名を付けました。シェエラザードは35歳で専業主婦をしていて夫も子供もいました。
彼女は週に2度羽原の家を訪れ、食材を買ってきてくれます。その後2人は寝室へ移動し、手際よく性交を行います。
それが終わると彼女は話を始め、4時半になると帰っていくという流れでした。
4か月前、羽原はシェエラザードと初めて会い、外に出ることのできない羽原の代わりに彼女が食料品やその他のものを買ってくるという役目でした。
空き巣
ある時、シェエラザードは前世が「やつめうなぎ」だったと語ります。やつめうなぎは口が吸盤のようになっていて川の底に引っ付きゆらゆら揺れていたと言います。
違う日には10代の頃よその家に空き巣に入っていたと語り始めました。高2の時クラスで片思いだった男の子がいて、授業を半日休みその男の子の家へ行ったんだそう。
彼の家には父親がおらず、母親は学校の教師、妹は中学生で家には誰もいませんでした。玄関マットの下には鍵があって、それを使って中へ入ります。
彼の部屋へ入り、机の上の文具を撫でまわし匂いを嗅いで口づけをします。その後鉛筆を1本盗み、自分が空き巣をした印としてタンポンを彼の机の引き出しの奥においておきました。
家に帰ってからも鉛筆をなめたり、においをかいだりして鉛筆はどんどん短くなっていきます。そして10日後、また彼の家に忍び込みます。
以前よりも長い時間彼の部屋にいて、引き出しの奥の小さなバッジを今度は持って帰ります。本当は彼のシャツを持って帰りたいと思いましたが、危険すぎると判断しました。
前に置いていったタンポンはまだ引き出しの奥にありました。今回は髪の毛を3本ノートに挟んで家を後にします。彼女は人の家に空き巣に入ることに癖になっていました。
話の続き
そこまで話して彼女は羽原の家を後にします。次にやってきたのは3日後でした。いつものように性交をした後、続きを話し始めます。
シェエラザードはそれまで学業優秀でしたが、勉強に身が入らず成績も落ちてきました。そして以前侵入してから10日後また彼の家に忍び込みます。
今回は洗濯かごの中の彼が使った後のシャツの匂いを嗅ぎます。彼女はその汗がしみ込んだシャツを持って帰ることに決めました。
それが危険なことだとわかっていても彼女は手放すことはできません。自分の下着を置いていこうと思いましたが、それは自分の性欲のせいで暖かく湿っていました。
そんな汚れたものを彼の家に残していけず、代わりの物を考えます。そこまで話して、シェエラザードはもう一度抱けるかと羽原に尋ねます。
2人は先ほどよりも激しく交わり、羽原は17歳の頃、彼女がどのような少女だったか想像することができました。
結末
結局シェエラザードは何も置いていかず、彼の家を去ります。その12日後、家の鍵が新しいものに取り換えられていて、マットの下の鍵もなくなっていました。
シェエラザードは落胆すると同時に、もう空き巣をしなくていいと安堵をします。次第に彼女は落ち着いてきて、成績も元の通りになりました。
彼女は「その4年後、彼と彼の母親と再会し、怪談のような体験をしたんだけど、その話は聞きたい?」と羽原に尋ねます。
羽原はうなずき、それはまた今度話すとシェエラザードは家を去ります。このままもう彼女と会えなくなったらと悲しい気持ちになります。女を失うということはそういうことなのかもしれないと羽原は思いました。
まとめ感想
「独立器官」では、初めて恋をした52歳の医者が恋煩いのため、最終的に自分から生きることを止めてしまうという話でした。
大体の人は若い頃に恋を体験し、失恋に対して耐性を付けていきますが、渡会医師は女性経験は豊富ですが失恋に対してはまだ初心者だったのかもしれません。
2つめのお話の「シェエラザード」では家を出れない羽原の代わりに買い物などしてくれる専業主婦のシェエラザードが性交のたびに不思議なお話をしてくれます。
なぜ家を出れないのか、どうしてシェエラザードは時々買い物をしてくれて性交までしてくれるのか小説の中では語られておらず、どういうお話??と思った方も多いかもしれません。
おそらく、その部分は重要ではなくて、村上春樹さんが伝えたかったのは女の人を失うことの恐ろしさなんだと思います。
羽原にとって、食事も性欲も面白いお話を聞かせてくれるという娯楽の要素も叶えてくれるシェエラザードという存在は大きく、その存在を失うことが恐ろしく感じているようです。
羽原を通して、女の人の存在の大きさを伝えたかったのではないかなと私は感じました。
以上となります。当サイトでは村上春樹さんの「一人称単数」などもネタバレしてますので是非そちらもご覧ください!SNSもフォローお願いします!