一人称単数 -著:村上 春樹- ネタバレ感想1

2021/11/13

カテゴリー:小説

孤独な女の人

概要

こちらのページでは村上春樹さんの「一人称単数」のネタバレ感想をしています!

全部で8個の短編集からなる書籍で、今回は「石のまくらに」と「クリーム」の2つのお話についてネタバレしております!

村上春樹さんの6年ぶりの短編小説集で、発売当初かなり注目されていた作品です。

さくっと読める短編ばかりなので、ネタバレを読んで面白そうだと思った方はぜひ本屋さんに行ってみてください!

残り6作品も近々公開予定です!SNSフォローしていただけると、更新後すぐネタバレ見ることができます!

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目次

石のまくらに

登場人物

・僕…19歳の大学2年生。彼女と一緒のバイト先でバイトしていた。

・彼女…20代半ばのフリーター。短歌を作っている。

物事の経緯

僕は成り行きで彼女と一夜をともにすることになりました。

彼女と僕は同じバイトをしていて、その一夜を共にした後は一度も顔を合わせることはありませんでした。

僕は彼女の名前すら知らず、知ってることと言えば彼女が短歌を作っていて、一冊の歌集を出しているということぐらいでした。

その歌集の中のいくつかの短歌は深く僕の心に残りました。短歌の内容は大体が男女の愛と人の死に関するものでした。

彼女はする前に僕に対して、いっちゃう時にほかの男の名前を叫んでしまうかもしれないと僕に言いました。

僕の住んでいたアパートは壁が薄かったため、大きな声を出されたら困るので、叫ぶときはタオルを噛むと彼女は言います。

彼女とは半月ほど一緒にイタリア料理屋さんでバイトをしていましたが、僕は皿洗いなどのキッチンで、彼女はホールスタッフだったためあまり会話を交わすことはありませんでした。

アルバイトをしているのは彼女を除き全員学生で、彼女だけ学生ではありませんでした。

中央線快速電車

彼女が12月の半ばにバイトを辞める際に、バイト先の何人かで飲みに行きました。

その飲みの場で、彼女が以前不動産会社や書店員をしていたが、上司や経営者とうまくやれず辞めてしまったと僕は知ります。

今のバイト先ではうまくやれていましたが、給料が安すぎるから新しい仕事を探すとも言っています。

僕はその時阿佐ヶ谷に住んでいて、彼女は小金井に住んでいたので、四ツ谷の駅から一緒に中央線快速に乗って帰りました。

電車が阿佐ヶ谷につき、僕が下りようとすると、彼女が僕を見上げて良ければ泊めてもらえないかと聞いてきます。

僕は狭いし散らかっているといいましたが、彼女は気にしないといいます。

アパートへ

僕と彼女は僕の住むアパートに来て、2人で缶ビールを飲みます。

時間をかけてビールを飲んでしまうと、彼女は当たり前のように服を脱ぎ裸になると、布団に入ります。

僕も同じように服を脱ぎ布団に入りました。僕らは布団の中で体を温めあい、いっちゃうときにほかの男の名前を呼ぶかもしれないと僕に言います。

僕はその人のことが好きなのかと彼女に聞くと、好きだけどあいてにはちゃんとした恋人がいて、私のことがそれほど好きではないようだと答えます。

加えて、お前は顔はブスいけど、体は最高だと彼は言うと彼女は付け加えました。

僕は彼女がそれほどブスいとは思いませんでしたが、特別美人だとは思いませんでした。

僕が呼ばれたら行くのかと尋ねると、彼女は時々は男の人に抱かれたくなるから行くと答えます。

その頃の僕には時々は男の人に抱かれたくなるという女の人の感情が理解できませんでした。彼女はだから私のことも誰かほかの人だと思っても良いといいます。

僕は好きな人がいましたが、わけあって関係を深めることができない相手がいました。名前を呼ぼうとも思いましたが、途中でばかばかしくなってやめました。

彼女は本当に大声で叫ぼうとしたので、僕は無理やり彼女の口にタオルを押し込みます。

短歌の歌集

翌朝は朝早くに授業がありましたが、昼前に起きたのでサボることになりました。

僕と私はコーヒーとトーストと卵を一緒に食べます。彼女に何の専攻をしているのか聞かれ、文学部だと僕は答えると、小説家になりたいのかと尋ねられます。

僕は特別小説家になりたいという気持ちはなかったため、正直に答えると、彼女は僕に対する興味を失ったようでした。

昼間の明るい光の中で、彼女がかみしめたタオルを目にします。昼の光の中で見る彼女が昨夜の彼女と同一人物だとはなかなか思えませんでした。

彼女は短歌を作っているのだと僕に教えてくれました。僕は彼女が作った短歌を聞いてみたいといいます。

彼女はしばらく迷っていましたが、今度歌集があるから送ってあげると約束してくれました。

彼女は1人で小金井まで電車に乗っていたくなかったのだと別れる前に教えてくれました。

結末

一週間後に彼女の歌集が郵便で送られてきました。

正直僕は本当に届くとは思っていなかったので、驚きます。タイトルは「石の枕に」作者の名前は「ちほ」と書かれてありました。

僕は彼女の名前を思い出せませんでしたが、ただ"ちほ"ではないことは確かだと思いました。

歌集はきれいに活字印刷されたもので、紙も分厚く上質なものでした。

僕はしばらく机の上に歌集を置いていて、時々ちらちらと表紙を眺めていました。

僕が初めてその歌集を読み始めたのはその週末の夕方でした。その中のいくつかの短歌は、短歌をあまり知らない僕の心を引き付けるものでした。

短歌を声に出して読んでいると、あの夜見た彼女の体を思い浮かべることができました。彼女は何度も僕の耳元で男の名前を切なく呼び続けていました。

僕はなぜかもう彼女が自ら命を絶ってしまったのではないかという気がしてなりません。短歌の多くが死のイメージと結びついていたからです。

しかし僕は彼女がまだこの世にいることを願っています。あれからかなりの年月が経ち、残っているのはささやかな記憶だけでした。

僕以外に彼女の作った短歌を暗唱できる人はいないのではないかと僕は思いました。

僕がその短歌をいつまでも覚えているのは、彼女があの夜かみしめていたタオルと記憶が結びついているからでした。

クリーム

登場人物

・ぼく…18歳で、浪人生。

・女の子…ぼくをピアノの演奏会に招待した少女。

演奏会への招待状

ぼくは18歳の時に経験した奇妙な出来事について、年下の友人に語っています。

18歳だったのははるか昔のことでした。

当時ぼくは浪人生でそこそこ私立大学に入れるほどの学力はありましたが、親に国立大学を受けるよう言われ、予想通り合格しませんでした。

ぼくは微積分計算に興味がなく、図書館に行って分厚い本ばかり読んで1年間をぶらぶら過ごしていました。

両親はそこで勉強に励んでいると思っていたそう。10月の初めにぼくはある女の子からピアノ演奏会への招待状をもらいます。

彼女はぼくより学年が1つ下で、同じ先生にピアノを習っていました。

1度だけ彼女と連弾(2人で1つのピアノを演奏すること)をしたくらいの仲だったので、どうして招待状が送られてきたのか不思議でした。

さらに16歳で僕がピアノのレッスンを辞めてから、彼女とは会っていませんでした。

彼女は顔立ちがきれいで、おしゃれな服を着て、お金持ちの私立の女子高に通っていたため、ぼくに関心を寄せるようなタイプではありませんでした。

連弾をしているときに、僕がミスすると露骨に嫌な顔をし、時には小さく舌打ちすることすらありました。

その頃の僕は暇だけはあったので、出席の返事を出し、なぜ自分に招待状を送ったのかの謎を知りたいとぼくは思います。

誰もいない会場

演奏会の会場は山の上にあり、駅で降りた後バスに乗り少し歩いた先にありました。手ぶらで行くのもまずいと思い、駅前の花屋さんで花束を作ってもらい向かいました。

ちょうどバスが来て乗りましたが、ぼくの格好はジャケットが新しく、バッグはくたびれすぎていて、派手な赤い花束を持っていたため、乗客からチラチラ見られ恥ずかしい思いをしました。

自分でも頬が赤くなるのを感じます。

どうして特に会いたくもない女の子の興味のない音楽のために、小遣いをはたいて花束を買って、日曜日の午後にこんなところまで来たのだと自分でも不思議に思います。

バスが坂を上るにつれて乗客は減っていき、演奏会の会場についた時、バスの中には運転手とぼくしか乗っていませんでした。

バスを降り、会場へ向かいますが、人通りが少なく、すれ違った車も2台ほどでした。周りは人影がなくすべてが深く静まり返っています。

もう一度場所と日時を確認してみますが、間違いはありませんでした。ようやく建物についた時、その建物は扉が締められ、鍵までかかっていました。

駐車場ももう長い間使用されていないようでした。インターフォンを押しても反応がありません。

その時、開園の時間までもう15分前となっていました。

宣伝カー

どうすればいいかわからず10分ほどそこに立っていました。ぼくは諦めて、来た道を戻り始めます。

このまま花束を持ち家に帰れば、母親にこの花束はいったい何なのか聞かれることが嫌で、駅で捨ててしまおうと思いましたが、その時の自分にとってその花束はかなり値が張るものでした。

少し坂を下ったところに小さな公園があり、その中の小さな四阿(あずまや:公園などに休憩のために設置された椅子と机)に腰掛けます。

その四阿は誰かが手入れしているようでとてもきれいでした。そのうち演奏会の会場に人が集まり始めるかもしれないとしばらくそこで様子を見ることにしました。

その時自分がひどく疲れていることに気づきます。ずいぶん前から疲れがたまっていたのにそれまでそれに気づかず今やっと気づいたような疲れ方でした。

しばらくすると、遠くから拡声器を通した声が聞こえてきます。それはどうやらキリスト教の宣伝をする車のようでした。

その車によると、すべての人は其の犯した罪によって厳しくさばかれ、神を信仰するものだけが救われるのだという内容でした。

どうしてこんな人気のない所で宣伝しているのだろうとぼくは不思議に思います。

その宣伝カーはどこかの曲がり角を曲がったようで、一度声が大きくなった後、姿を見せぬままだんだん声が小さくなっていきました。

ぼくはそれが世界から自分が見捨てられてしまったように感じます。

1人の老人

ぼくは彼女にかつがれたのかもしれないと急に思い始めます。何かわけがあって、彼女は僕に個人的な恨みを抱いてしまったのかもしれないと思いました。

ぼくが騙されているのを見て、どこかでほくそ笑んでいるか、大笑いしているのかと想像してみます。

しかしそれほど手の込んだいたずらを彼女がしたのかどうか少し疑問でした。

そんなことを考えていると、ぼくは呼吸がうまくできなくなっていました。年に1度か2度ぼくはそういうことがありました。それはストレス性の過呼吸のようでした。

その場にしゃがみ込み目を閉じ落ち着くのを待ちます。5分か15分か時間がたち、気が付くと目の前に1人の老人が腰かけていました。

老人は痩せた中背で、服装は少し年季が入っていました。

しばらく前からぼくのことを観察していたようで、大丈夫か?と聞かれるのをぼくは待っていましたが、何も言わずこうもり傘を両手で握ってこちらを見ています。

ぼくは居心地が悪く、その場を去りたいと考えますが、なかなかうまく立ち上がれませんでした。

中心がいくつもある円

そんな時老人が突然「中心がいくつもある円や」と言いました。ぼくが何も言えずにいると老人はもう一度繰り返しました。

さっきの宣伝カーを運転していた老人かと疑いましたが、さっき拡声器で聞いた声とは違っていました。

ぼくは円ですか?と老人に尋ねます。老人は中心がいくつもあり、さらに外周を持たない円を思い浮かべられるかとぼくに尋ねてきます。

ぼくは一応考えてみますが、思いつかずわからないと老人に答えます。授業ではそんな円習っていないと付け加えます。

老人は本当に大事なことは学校では教えてくれないといいます。ぼくはそんな円が実際にあるのかと老人に聞くと、もちろんあるが、誰にでも見えるわけではないと答えました。

老人は自分一人だけの力で想像できた時、はじめてそれが人生のクリームになるのだといいました。

フランス語にクレム・ド・ラ・クレムという言葉があり、それはクリームの中のクリームという意味がある。人生の一番大事なエッセンスがクレム・ド・ラ・クレムなのだと老人はいいます。

その時のぼくにはよくわかりませんでした。ぼくはもう一度目を閉じ円を想像してみます。

ぼくの中で円は中心を持ち、そこから等距離の点を結んだ図形だったので、円の定義に沿っていないのではないかと思いました。

しかし、不思議と老人の頭がおかしいとは思いませんでした。老人はぼくに何か大切なことを伝えようとしているのだと思ったので、ぼくは必死に考え続けます。

ぼくは諦めて目を開けると、そこには老人の姿はありませんでした。

結末

ぼくは幻を見ていたのかと思いましたが、間違いなく目の前にいてぼくに不思議な質問を与えてきたのでした。

ぼくは普段の呼吸を取り戻し、ベンチに赤い花束を残してその場を去ります。

その話を終えた時、年下の友人はその時いったい何が起こっていたのかと僕に尋ねます。僕は正直にいまだにわからないままだと答えます。

しかし、そこは大事なことではなく、特に知る必要もないことなのだと答えます。

それらは人生のどうでもよいことで、人生のクリームとは何のかかわりも持っていないのだととぼくは思ったのです。

僕らの人生には筋の通らないことや不思議な出来事が起こることがあるが、それらはただ目を閉じてやり過ごすしかないのだと僕は言います。

友人は何も考えないことは難しいことなのだろうと返しました。加えて、老人の言っていた円は想像できたのかと僕に尋ねます。

ぼくは時々わかりそうな時がありましたが、結局わからなくなるのを繰り返していました。

何か出来事がある度、ぼくは特別な円を想像し、自分の中の特別なクリームについて思いを巡らせています。

感想

以上となります!2つのお話はどちらも僕が主人公になっていて、どちらも昔の自分の出来事を振り返っているような視点で描かれていました。

どちらも村上春樹さんらしい少し難しめなお話となっています。中心がいくつもある円、皆さんは想像することができましたか??

後、この書籍には6つのお話があります。近々更新予定なので、是非SNSフォローしてお待ちください!

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次のお話へ→(チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ ウィズ・ザ・ビートルズwith the beatles)