阿弥陀堂だより(あみだどうだより) -著:南木佳士(なぎ けいし)- ネタバレ感想後編

2022/03/07

カテゴリー:小説

大仏

概要

こちらのページでは「阿弥陀堂だより」のネタバレ後編となっています!!まだ前編読んでいない方はそちらを読んでから戻っていただくことをオススメします。

前編

前回までのお話で、美智子は心を病み、谷中村で村医をしながら療養することになりました。

美智子は谷中村の人々と触れていく中で、次第にパニック障害を乗り越えていきます。孝夫も作家として生きていくのでしょうか。

鍵になる人物として小百合ちゃんという声の出ない少女が登場します。彼女は孝夫たちをどのように変えてくれるのでしょう。

目次

ストーリー

登場人物

・上田孝夫…中学に谷中村を出て、43歳になって帰郷した。

・上田美智子…谷中村の診療所の内科医。孝夫の妻。

・おうめ婆さん…今年96歳になる阿弥陀堂の堂守。

・上田せい…孝夫の祖母。

・孝夫の父親…孝夫を谷中村に残して東京へでた。のちに孝夫を呼び寄せる。

・田辺さん…孝夫の実家の隣の家の住人。

・石野小百合…声の出ない少女。役場に勤めていて「阿弥陀堂だより」という記事を書く。

・中村医師…小百合ちゃんの担当医で30歳前後の若い医者。

阿弥陀堂だより

斜面を削って作った2人の新築の新居は梅雨が明ける頃に完成する予定でした。それまで孝夫の祖母の家で2人は住み、布団を寄せ合って寝ます。

新しい診療所での責任は少なく、谷中村にきてから美智子の睡眠薬の量は減り、よく眠れるようになります。

村にきて20日がたち、隣の家の田辺さんが広報誌を配りに来てくれて、その中に阿弥陀堂だよりというコラムを見つけます。

そのコラムは阿弥陀堂のおうめ婆さんインタビューした記事でした。孝夫はその記事に光るものを見つけ、美智子にもこのコラムを見せると彼女も阿弥陀堂だよりのファンとなります。

美智子はおうめ婆さんが高血圧で以前倒れていたことを知り、2人は阿弥陀堂に登って血圧を測りに行くことにしました。

トイレ作り

おうめ婆さんは昼寝をしていて、血圧を測りに来たことを伝えると大変喜びます。孝夫が阿弥陀堂にトイレがないことを尋ねると、するときは穴を掘ってしていると彼女は言います。

孝夫はおうめ婆さんに祖母を重ねて、良かったら自分が便所を作ろうかと提案します。おうめ婆さんは少し渋って了承します。

村の人たちはトイレを作ろうと言ってくれなかったのかと尋ねると、話はありましたがその時は元気だったから断ったんだと言います。しかし、最近穴を掘るのが大変で、孝夫が心から暇そうな顔をしていたからokしたんだそう。

孝夫が阿弥陀堂だよりについて聞くと、役場の若い娘がインタビューに来るんだとおうめ婆さんは答えます。

孝夫はそれ以来、5日かけて穴を掘り、6日目にトタンを買って担ぎ上げると、阿弥陀堂にはその女の子がいました。

声の出ない女の子

孝夫はその子に挨拶しますが返事はなく笑顔だけ返ってきます。おうめ婆さんによると彼女は声が出ない病気なんだそう。

加えて、この子が阿弥陀堂だよりを書いている女の子だと紹介してくれました。彼女は孝夫の大学の後輩で、打ち解けあいます。

家に帰ってその女の子のことを美智子に言うと、以前診療所に来たことがあるそうで、石野小百合という名前だと教えてくれました。

喉に悪性の腫瘍ができて、治療をしたのち声が出なくなったんだそう。

阿弥陀堂のトイレが完成したのは4月末でした。それまでに小百合ちゃんと何回か会い、孝夫は筆談をします。

イワナ釣り

5月になると、美智子はイワナ釣りを始めます。釣具屋で道具をそろえて、2人は川へ出ますがまったく釣れません。

あきらめかけていた時、一匹のイワナを釣ることができました。彼女はそれ以来、1年釣りができる遊漁券を買い毎日夕方に釣りをしに行きます。

釣りを始めてから体重が増えて健康だったころの面影を取り戻し始めます。美智子はイワナを釣ってから睡眠薬をのまずに寝れるようになりました。

ある時、便所の様子を見に孝夫と美智子は阿弥陀堂に登ります。孝夫がおうめ婆さんに便所の使い心地はどうかと聞くと、あまり使っていないと言います。

桑で穴を掘ってからじゃないと出ない体になってしまったんだと美智子は言います。孝夫はおうめ婆さんの生活習慣を崩してしまったことを反省します。

美智子の葛藤

雨の季節になり、孝夫は田辺のおばさんと一軒先の吉村さんの田植えに参加します。孝夫は体を動かすことで自分の小さな生を実感していました。

田植えは2日で終わり、孝夫は手伝ってくれたお礼として夕食に呼ばれます。そこでの話題は昔もっとにぎやかだった田植えの時の思い出話でした。それを聞きながら自分のこれからの人生を考えます。

新居が完成して物の整理をしているといつのまにか夏が来ていました。お盆になり、帰省が始まって、普段耳にしない子供の声が聞こえ始めます。

帰省客が帰り、村が静かになるころ、村にきて半年が経過しようとしていました。美智子の評判は良く、これまでに早期のがんを3人も見つけていました。

村長は美智子に毎日診療してくれないかと説得しますが、しばらくこのままがいいと折れませんでした。いまだにあの苦しみが美智子の中にくすぶっていたのでした。

ある日、診療所に小百合ちゃんが来て、診断すると両肺に影があり、美智子はのどの肉腫の転移じゃないかと考えていました。それは美智子の専門分野で以前に3例同じ症例を経験していました。

小百合ちゃんの担当医はその症例の経験がなく、美智子は自分が手助けするか迷っていました。孝夫は美智子を立ち直らせるには今しかないと説得します。

面会謝絶

孝夫は小百合ちゃんのお見舞いに行きました。外に出て待っていると、30歳前後の若い医者と美智子が話をしています。美智子が治療を手伝うことになったのです。

その日から毎日、2人は町の病院に通うようになります。小百合ちゃんの病室には面会謝絶の札が掛けられ、会うことはできませんでした。

若い医者の名前は中村医師といい、美智子の過去の論文を読んでいて、彼女の指示を信頼していました。

美智子はこの1週間がヤマだと孝夫に話します。抗がん剤を投与する治療をしていて、その影響で肺炎を発症する可能性があるんだといいます。

その3日後、小百合ちゃんが肺炎を併発します。小百合ちゃんの容態が安定したのは午後10時を過ぎた頃でした。

美智子は自身がパニック発作を起こさないか心配でしたが、とても落ち着いていて、そのことに自分でも驚いていました。その後3時間ごとに交代して仮眠をとり朝になりました。

孝夫は美智子の着替えを病院にもってきます。美智子が元気な様子をみて孝夫は拍手したくなりました。その日も次の日も徹夜し3日間徹夜した彼女の顔には疲労の色が見えます。

しかし、容態が安定して何とかなりそうだと美智子は孝夫に言います。

回復

小百合ちゃんの面会謝絶が解除されたのは稲刈りが始まったころでした。小百合ちゃんは髪の毛が抜けた頭に毛糸の帽子をかぶっていて、病室には孝夫と小百合ちゃんがいました。

彼女の首には病気の痕跡が色濃く残っています。おうめ婆さんに小百合ちゃんが危機を脱したことを伝えると泣いていたよと小百合ちゃんに伝えます。

小百合ちゃんも大粒の涙を流しました。帰りの車内で、美智子は彼女の肺の腫瘍が完全に消失したと語ります。

ある時夕食を終えると、役場に勤める小百合ちゃんのお父さんがやってきます。お父さんは美智子に土下座し感謝を述べます。

しばらくすると、話題を変えて、今度新しい医療施設をこの村に作る計画があるので、そこの所長になってほしいと頼まれます。

美智子はあっけなくその提案を了承し、孝夫とお父さんはそのあっけなさに驚きます。

おうめ婆さんとの再会

美智子から電話があり、小百合ちゃんが退院したから出てこないかと言われ、急いで車を走らせます。病状が回復したらみんなでおうめ婆さんに会いに行こうと孝夫は提案します。

孝夫は美智子を見送ると、机に向かい小説を書き始めました。自由に書きたいことを書くと自らに課します。

小百合ちゃんが体力を回復したころ孝夫の運転する車で阿弥陀堂に向かいます。3人で阿弥陀堂につくと、おうめ婆さんは大粒の涙を落とします。

小百合ちゃんも泣いていました。

クリスマスイブ

クリスマスイブに美智子を車に乗せて診療所に送ると、小百合ちゃんが待っていました。

おうめ婆さんに会いたいので、車に乗せていってくれないかとお願いされ、阿弥陀堂へと向かいました。美智子は診療所で診断があり、残ります。

小百合ちゃんはおうめ婆さんに会うと、茶色のひざ掛けをプレゼントしました。帰り道、孝夫にもペアのマグカップをプレゼントしてくれます。

小百合ちゃんを家に送った後、ついでに美智子を診療所に迎えに行くと、急いで町の病院へ行ってほしいと言います。

待つこと一時間、彼女は3か月だと孝夫に伝えます。今年43歳になる美智子に子供ができたのでした。

結末

妊娠が決まると、日々は忙しくなり孝夫がより料理などするようになりました。小説も毎日少しずつ書いていました。

冬の間、おうめ婆さんの血圧の測定は孝夫が担当し、阿弥陀堂に登ります。冬の間、トイレはおうめ婆さんに重宝されているようでした。

4月の良く晴れた日、孝夫と美智子と小百合ちゃんは阿弥陀堂に登って記念撮影をします。

写真に写った3人の女は実にいい顔で笑っていました。老年・中年・娘盛りのそれぞれの年代の女たちはあけっぴろな笑顔を見せています。

まとめ感想

美智子は小百合ちゃんの治療を通して、自らのパニック障害を乗り越えます。孝夫も周りの人たちに刺激され、小説を書き始めました。

クリスマスイブには天からの贈り物として、美智子に子供ができます。とても感動的なラストでした。

最後の老年・中年・娘盛りの記念写真は時間の流れを感じさせてくれ、自らの生を意識させてくれます。生きるとは何かということを考えさせてくれました。

似た生きるとは何かというテーマで太宰治の「斜陽」という面白い小説もあるので、そちらのネタバレもご覧ください!!

「斜陽」ネタバレへ

他にも小説ネタバレしてるので、そちらもご覧ください。SNSのフォローもお願いします。

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