「赤ひげ診療譚」ネタバレ感想 -著:山本周五郎(やまもとしゅうごろう)-

2021/09/18

カテゴリー:小説

赤ひげ診療譚

概要

このページでは赤ひげ診療譚の中の「むじな長屋」「三度目の正直」についてネタバレ感想していきます。

前回の「狂女の話」「駈け込み訴え」を通して主人公の登は、自身の考えを変えていきます。

まだ2つの話を知らないよーって方はこちらからご覧ください!

「むじな長屋」というお話はこの赤ひげ診療譚の中でトップクラスに良いお話なので、ご期待ください!

目次

むじな長屋

登場人物

保本登…主人公。長崎への遊学経験をもち天野の後ろ盾もあったが、貧乏な小石川診療所に配属される。

新出去定(にいできよじょう)…別名赤ひげ。貧乏な医院を経営している。

〇佐八…長屋に住む職人。稼いだお金を他人に惜しげもなく費やす。

〇治兵衛…佐八の住む長屋の差配(管理人)。

〇おなか…佐八の元妻。

(〇…このお話で初登場の人物)

登の変化

登はそれまで、医院の上着を着ていませんでしたが、着るようになりました。

上着を着るようになると、動きやすかったり清潔だったりのほかにも助けられる命が増えるということに登は気づきます。

貧しい人々は医院に行くものは少ないですが、医院の服を着た医者が近くを通ると見てほしいというものが多いからです。

登の周りの者は喜ぶ者もいましたが、大半が皮肉な目つきや薄笑いを浮かべたものが多かったのでした。

赤ひげの怒り

一方赤ひげは医院の経費を三分の一カットされ、通い治療の停止を幕府から命令され、機嫌が悪いようでした。

その理由も将軍家に娘が生まれたからお金が必要だといいます。赤ひげは強く政治に反発します。

その後、赤ひげは壱岐というお金持ちの家の治療に向かいます。彼は肥満で病になったようです。貧困で病んでいる人を大量に見ていた赤ひげは強く憤ります。

佐八の急変

登は長屋に住む佐八という男の治療を受け持つようになります。不思議なことに佐八は稼いだお金はもちろん、治療のための栄養のある卵や魚、薬までも周りのものに配ります。

登はそれについて人間臭い理由がありそうと睨みます。佐八を診察後、長屋の地面の中から骸骨が見つかります。その数日後、佐八が再度急変し、長屋へ登は向かいます。

その道中でも女が子供の病気の治療をしてほしいと頼まれます。それは登が医院の上着を着ていたからでした。

登は医院に行くよう女に伝えます。登は再度上着の効果を実感します。

佐八のところにつくと、2人の女が看病していましたが、佐八は起き上がると登と2人で話をしたいといい女を出ていかせます。

佐八の身の上話

佐八は身の上話を始めます。佐八は幼いころに両親を亡くし、親方の家で住み込みで職人をしていたそうです。

ある雨の日に傘を貸してくれた"おなか"という女に佐八は一目ぼれしてしまいます。しかしおなかは嬉しいけど借金や義理があり、結婚はできないといいます。

それからというもの、佐八は酒や遊びをやめお金を貯めました。親方の働きかけもあり1年後結婚することができました。

しかし結婚1年後に家が火事になってしまい、突然"おなか"が姿を消してしまいます。佐八はしばらく探しましたが、あきらめて今の長屋で仕事場を開きました。

その2年後に佐八は浅草寺で、ばったり子連れの"おなか"と再会します。佐八は怒るというより"おなか"を哀れに思い、一緒に泣きたい気持ちになりました。

少し話をした後、わけも聞かず佐八と"おなか"は別れます。数日後"おなか"は佐八の家を訪ねます。"おなか"は佐八に訳を話したいといい、彼は話を聞きます。

おなかの話

彼女は佐八と結婚する前、親に決められた相手がいて、その相手はお金を家族に入れてくれていました。

彼女はその相手に恩義はありましたが、佐八と結婚したいという気持ちが強く、佐八と一緒になることを選びます。

そして火事が起こった時、彼女は人の一生分幸せに暮らしたと思ったそうです。姿を消せば佐八は焼け死んだと思うことでしょう。

気が付くと"おなか"は実家に帰っていて、親の決められた相手と結婚することになりました。

しかし、浅草寺で佐八と会ったとき、"おなか"の目が覚めます。やっぱり佐八以外は考えられないそう。そして今帰ってきたといいます。

結末

"おなか"は佐八に抱きしめてほしいといいます。佐八は彼女を抱き寄せると、"おなか"は懐に小刀を持っていて、そのまま彼女は即死してしまいます。

佐八も一緒に死のうと思いましたが、"おなか"に死なないでといわれているようで死ぬことはできませんでした。

数日前に見つかった骸骨は"おなか"のものだと佐八は言います。佐八は彼女を土に埋め、"おなか"への供養と自分の罪滅ぼしのために他人に尽くしてきたそうです。

最後に佐八は差配の治兵衛に自らの罪を伝えるよう登に伝えます。

三度目の正直

主な登場人物

保本登…主人公。長崎への遊学経験をもち天野の後ろ盾もあったが、貧乏な小石川診療所に配属される。

新出去定(にいできよじょう)…別名赤ひげ。貧乏な医院を経営している。

お杉…おゆみという精神の病をもつ女のお世話係。

〇猪之…大工で藤吉の弟分。さっぱりとした気性と整った顔立ちで女から好かれる。

〇藤吉…同じく大工。猪之の様子がおかしいので、赤ひげのところに相談しにいく。

〇お考…1人目の女で、居酒屋で働く。顔も体も太っちょ。

〇およの…2人目の女で、居酒屋で働く20歳。酒飲み。

〇お松…3人目の女。18歳で問屋で働く。

〇おせい…4人目。小料理屋の女。

(〇…このお話で初登場の人物)

  

猪之の診断

猪之という気が狂ってしまった男を赤ひげと登は診断することになります。兄貴分の藤吉がお願いしました。

赤ひげは気鬱症と診断します。赤ひげは登に明日もう一度藤吉と猪之の2人のことを聞きに行くよう命じます。

登は風邪や熱よりも大したことがない気鬱症にわざわざ労力を使うことを嫌がりますがしぶしぶ了承します。

次の日訪れると、藤吉はわざわざ仕事を休んで話をするといい、親方のところへ一緒に行くことになる。

途中、逆さに植えられた植木鉢を見せ、これは猪之が植えたものだといいます。その道中で藤吉と猪之の身の上話を始めます。

藤吉と猪之

猪之と藤吉は大政という大工の家に弟子入りしていて、猪之は1番年下でその次が藤吉で歳が近く、仲良くなります。

猪之は顔立ちの良さや性格のおかげで女に好かれます。しかし猪之は女に興味が無いようでした。その後猪之と藤吉は大政を出て家を持ち1年ほどのんきに暮らします。

そんな時、藤吉は猪之から嫁にもらいたい女がいるから話をつけてほしいとお願いされます。

1人目の女

それはお考という女で、居酒屋で働く顔も体も丸々とした女でした。藤吉は彼女の親に説得しに行きます。彼女の親は1人娘だから婿に来るなら良いといいます。

それでも猪之は了承し、話はまとまります。しかし半月後、猪之は藤吉に縁談を断ってくれと頼みます。

藤吉が理由を聞くと、お考に手を握られ、「一生捨てないで」といわれたからだそう。猪之は脂汗でぼてっとした手で握られ背骨が抜かれたような気持ちになったそう。

藤吉は普通のことだといいますが、猪之は藤吉がそういうことをされたことがないからだと反論します。藤吉は断るなら自分でしろといいます。

猪之は自ら縁談を断ったようです。藤吉は猪之がそっぽを向いている女に熱を上げるということに気づきます。

2人目の女

猪之は、その年の冬にまた嫁にもらいたい女がいると藤吉に言います。また藤吉に話をまとめてほしいようです。

次の居酒屋の女で名はおよの。彼女は酒飲みという噂があり、家計が持たないと藤吉は反対しますが、猪之は結婚すれば落ち着くはずだと引きません。

結局、猪之は藤吉を説き伏せ、およののところに縁談の話を持っていきます。縁談はうまくいき、藤吉は猪之にうまくいったといいますが猪之は嬉しそうではありません。

藤吉は背筋がヒヤッとします。その後藤吉が水戸に仕事をしに行くことになり、準備をしていると、猪之が自分もつれていってほしいといいます。

理由を聞くと、嫁に欲しい女がいるから口をきいてほしいといいます。詳しく聞くとそれは縁談が決まったおよのではなくほかの女だといいます。

猪之は「三度目の正直」だといい、頼み込みます。なぜ水戸に行くのか聞くと、およののほとぼりを覚ましたいからだそうです。藤吉は猪之をどなりつけます。仕方なしに再度掛け合いに行きます。

3人目の女

次の女はお松という18歳の女で、およのとの縁談が決まった際に以前親切にしてくれたお松のことを思い出しかみさんにするなら彼女しかいないと思ったそう。

お松も猪之のことを好きだったようで、話はまとまりそうでしたが、とりあえず藤吉の実との仕事が終わってからにしようということになりました。

水戸の仕事がうまくいかず、40日ほどかかっていた時、猪之がひょっこり水戸に訪れました。なぜ訪れたか聞くと、お松が嫌になったのだそう。

縁談の話を断ってほしいと猪之は藤吉に言います。藤吉は目をつぶり怒りが静まるのを待ちます。三度目の正直は守られませんでした。

理由を聞くと、猪之がお松と浅草寺にお参りに行ったときお酒を飲み、お松が「浮気をしちゃあやあよ」といわれ、背骨を抜かれたような気持になったからだそう。

藤吉は水戸に追い返すのもかわいそうと思い、とどめました。ただしもう女に惚れないことと深く念押しします。猪之はそれでもお松の話を断るのは藤吉がしてほしいと抜け目なくお願いします。

藤吉は仕方なく引き受けます。

4人目の女

その半月後、猪之の様子がおかしくなります。あの時と同じだと藤吉は背筋がぞっとします。猪之はずっとため息をついており、それに我慢できず藤吉はどこの女だと尋ねます。

小料理屋の女だといい、名はおせいだといいます。猪之はおせいを前にするとものが言えず、自分から縁談の話ができないといいます。

藤吉はもうまっぴらだといい、手伝わないといいます。わかっていると猪之は言いますが、「三度目の正直なんだがな」とつぶやきます。

どこがだと藤吉がいうと、猪之はおよのにお松に今回で3度だといいます。お考はどうしたというと、数のうちに入らないといいます。

藤吉はそれで耐え切れなくなって、また小料理屋に掛け合いに行きます。おせいも猪之が好きで了承します。

おせいは猪之に会いたいといい、猪之を連れてきて藤吉は帰ります。すると30分ほどで猪之は帰ってきて、1足先に江戸に帰るといいます。

猪之から話を聞くと、おせいは猪之に会うといきなり抱きつき嬉しいといいます。江戸に帰るときは一緒に連れて行って、騙すと承知しないと言われ、猪之は嫌になったといいます。

相手が少しでもなにかいうと、猪之は嫌になってしまうのでした。

赤ひげに報告

猪之はその後、藤吉の家に住み着き、藤吉の妻は多変驚きます。去年の暮に、急に猪之の様子が変わり、1日中ぽかんとするようになります。

仕事もミスを連発し、仕事を休むことになります。それから医者に見せたりまじないもしますが余計に悪化する一方だったそうです。

登は養生所に戻ると赤ひげにそれまでの話を報告します。すると赤ひげは、猪之は女ではなく藤吉が原因だといいます。治すためには藤吉から話す必要があるといいます。

これまでのことは藤吉を困らせるためにやり、藤吉に甘え、自分と藤吉をつないでおこうとしたと赤ひげは考えます。

その後猪之は養生所に引き取られ、藤吉には一切見舞いに来ないよう伝えられます。猪之はなにもせずぼーっとするようになりました。

登はそんな猪之を心配し、なぜ女が嫌いなのか尋ねます。猪之は女が嫌いではないが、自分がおかしいことは自覚しているといいます。

猪之の話

猪之は自分がおかしくなった理由を話はじめます。

猪之は18歳の時、棟梁の娘の友人の9歳のおたまという女になつかれます。彼女に猪之は抱きつかれ、出来心で唇を吸ってやります。

そうすると、おたまは猪之の口の中に舌を入れてきます。それまで猪之は全くそういうことを知りませんでしたが、9歳の女がそういうことをしてきてびっくりします。

猪之は、9歳でそんなことをしてくる女というものはおっかないと思い込んでしまったそうです。

猪之はこのような過去を持ちながらも次第に変わっているようでした。ある時登は猪之がお杉と一緒に歩いているところを見ます。

あんなに女に対して嫌悪感をもっていた猪之に何があったのか登はとても不思議に思います。猪之はそれから部屋にいることが減り、外に出ていつも何かをしています。

お杉の手伝いをしたり、養生所の大工の仕事をしていたりしている猪之をみて登はもう大丈夫だろうと思います。

猪之の相談

ある時猪之は登に相談を持ち掛けます。猪之は酒を飲み、まず自分をここにおいてほしいと言います。登がお杉のことを嫁にもらいたいのかと聞くと、猪之は図星のようでした。

彼はお杉の境遇に同情し、好きになったといいます。お杉を見て自分もしっかりしなければならないと思い、幸せにしてやりたいといいます。

登は初めて猪之が、愛する立場に回ったと思います。これまでは藤吉にかばわれ、女のほうから誘われていました。今回はお杉に憐れみ、幸せにしてやりたいという猪之の成長を感じます。

登はそう思いながらも猪之に三度目の正直か?と尋ねます。

感想

むじな長屋では、佐八の悲しい過去やなぜ他人にやさしくするのかが描かれていました。おなかが死んでしまった後、どんな気持ちで佐八はほかに人にやさしくしていたのでしょうか。

非常に考えさせられるお話でした。また貧困で病になる人と肥満で病にかかる人との対比もあり、赤ひげの苦悩も描かれています。

三度目の正直では、むじな長屋と比べてかなり気楽に読めるお話だと思います。何度も女を好きになり、好意を向けられるといやになる猪之の気難しさが少し面白く思う人もいるかもしれません。

それに付き合ってあげる藤吉の弟思いな所もとてもいいなと感じました。

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