「心淋し川(うらさびしがわ)」ネタバレ感想 -著:西條奈加(さいじょう なか)-

2021/10/11

カテゴリー:小説

谷を流れる川

概要

この作品は第164回の直木賞受賞作です。当時かなり本屋さんで見かけた方も多いと思います。

今回はこちらの単行本のネタバレ感想をしていきたいと思います。

この作品は短編集となっていて、全部で6つの短いお話から構成されています。しかしところどころ前のお話の登場人物が登場したりと少しつながりを持っています。

このページでは最初の2つのお話、「心淋し川」「閨仏」のお話をネタバレしています!随時次のお話も更新予定なので、良ければSNSフォローしてお待ちください!

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目次

心淋し川(うらさびしがわ)

登場人物

ちほ…志野屋で針仕事をして家計を支えている。

きん…ちほの母。

てい…ちほの姉。結婚して浅草に住む。

荻蔵…ちほの父。

茂十…長屋の管理人(差配)。穏やかな性格で愛想がいい50くらいの男。

手代…志野屋で納品された着物のチェックをしている。ちほに対して厳しい。

元吉…志野屋に着物を納品する上絵師。

ちほ

ちほは心淋し川のそばで生まれ、そこで育ちました。姉のていが結婚し、浅草に行ってから母の愚痴を聞く役目は妹のちほに変わりました。

ちほはその話を聞くのがうんざりでした。父親の萩蔵も昼間から酒を飲み、家計を支えているのはちほと母の針仕事でした。

それは姉の家も同じで、姉のていの夫もあまり稼ぎは良くありませんでした。母親はちほに家を出ていってほしくなさそうでした。

ちほは仕事場の志野屋へと向かいます。志野屋は岡場所(政府が認めていない遊女屋が集まった場所)と同じ宮永町にあったので、岡場所に勤める男が着る半纏などを受け持っていました。

ちほは志野屋で仕上げをチェックする手代が苦手でした。姉のていと比較され、ねちねちと嫌味をこぼされ、最初の2年は毎回やり直しを命じられていました。

ちほが志野屋につき、あたりをきょろきょろしていると、手代に上絵師ならまだ来ていないといわれ、頬を熱くします。

ちほは図星だということを悟られないように志野屋を出ます。志野屋の前でしばらく待っていると、その上絵師が現れました。

元吉との出会い

半年ほど前のその日は、ちほの仕上げた着物の出来が悪く、志野屋の手代に長い間説教された後でした。

落ちこんで店を後にした時、ある男から声をかけられます。その男は上絵師で、名は元吉といいました。元吉はちほのことを慰めてくれ、少し話をしました。

元吉と話していると、ちほの小さな不満を吸い取ってくれるようで、気分が良くなりました。

それからは志野屋で顔を合わせるたびに話をし、出会った1か月後には寺の前で待ち合わせをして、次会う日まで決めるような仲になりました。

これまで、ちほには縁談の話が何度かありましたが、母や姉のように苦労することがわかっていたので、気が進みませんでした。

元吉の身の上話をちほは聞いていましたが、どこにも不安にさせるような要素がなく、期待だけが膨らみます。

元吉によると、今年の6月で2年の修業期間が終わり、独り立ちできるとのことだったので、それを終えたらどうするのかちほは元吉に聞いてみました。

元吉はなんだか歯切れが悪そうに口ごもります。ちほは自分のことを本気で思っていないのではないかと不安に感じ、ある日その不安な気持ちがはじけ飛んでしまいます。

萩蔵の喧嘩

ちほは元吉に私のことをどう思っているのか聞いてみました。元吉はもちろんちほのことは好きだが、自分のことで精一杯で先のことはわからないといいます。

ちほは耐え切れずもういいと言って、寺の境内を後にします。元吉は追いかけてこず、それがより一層みじめに感じました。

家に帰ると、その日は姉が実家に帰ってきていました。姉はちほに好きな人でもできたのと聞かれ、その場はごまかしましたが、後で姉に呼ばれて白状させられました。

相談すると、姉は自分のように子供を授かってしまえばいいといいます。姉は手に入れようと思ったら自分の身をかけるしかないといいました。

誰かがここから連れ出してくれることはないよと言われ、ちほは図星だったのでどきりとします。

姉に励まされ、明日元吉のところを訪ねてみようとちほは決心します。

翌日、強い雨が降っていて、出かけるのがおっくうだったので、また明日訪ねてみようと思い、その日は眠りにつきました。

すると夜中に戸が叩かれ、差配(長屋の管理をしている人)の茂十がやってきます。

茂十によると、父の萩蔵が居酒屋でほかの客を殴りつけたといいます。

母はそれを聞いて驚き戸惑っています。若いころ父は人を殴って相手に大きな傷を負わせてしまい、それ以降喧嘩はしないと母と約束していたのでした。

母は父が手を出したのならよっぽどのことだと言います。その居酒屋はひさごという名前だと茂十は言います。

ひさごは元吉がよく行く居酒屋さんの名前でした。

ちほは茂十に殴られた相手の名前を尋ねます。茂十は知らないが、若い職人だといいます。

ちほはそれを聞き、自分もつれていってほしいと茂十に懇願します。その居酒屋は岡場所のところにあり、茂十は止めますが、結局ちほの熱量に折れ、連れていくことになりました。

夜の岡場所

ちほは夜の岡場所に足を踏み入れたことがなく、獣じみた息が通りに満ちているように感じました。

ひさごに茂十とちほが着くと、父の萩蔵とその後ろに張り番のように男が2人立っていました。

ちほはその背後の男の1人に、殴られた男は誰か尋ねます。その男は殴られたのは元吉だといい、自分は元吉の兄弟子だといいます。

ちほは頭に血が上り、父に怒ります。元吉がもしけがをしたら上絵師の仕事ができなくなってしまうと訴えます。

父は俺の知ったことじゃないと反論し、始まった親子喧嘩を茂十がなだめます。

茂十は元吉はやめておけとちほに言います。父もちほのことを遊び半分にしか思っていないと付け加えます。

ちほは心が折れそうになりますが、兄弟子が元吉をかばいます。

兄弟子によると、ちほのことは本気で好きでいたが、事情があって相談していたといいます。それを父に聞かれ喧嘩になったそう。

ちほは元吉にけががないか尋ねますが、けがは大したことないといわれ、ちほは怒りがしぼみ、泣き出してしまいました。

茂十と兄弟子に促され、奥にいる元吉のところへちほは案内されます。

元吉の本心

奥には、頬を腫らした元吉がいました。元吉はちほに経緯を話します。

実は、元吉は修業が終えると京都へ行くよう親方にいわれており、親方のお世話になった人が京都にいて、そこで腕を磨くよう親方に打診されたといいます。

職人にしてみればその話はとてもありがたい話だったが、ちほのこともあり悩んでいたそう。

親方は厳しい人で住み込みしか認めていないので、ちほは連れていけないといいます。

元吉はちほか修行かどちらか腹を決めているようでした。その相談を父に聞かれて喧嘩になったといいます。

ちほはそれを聞いて落ち込みましたが、気持ちは不思議と落ち着いていました。男をこれほど悩ませたなら女として満足だと考えました。

ちほはダメ押しで待っていてはダメか尋ねますが、元吉は3年以上もちほを待たしていては申し訳ないと父に殴られたときに思ったそう。

ちほは元吉に立派な上絵師になってといい、父と茂十と一緒に帰りました。

結末

夏が終わったころ、元吉はもう京都へ行ったかと考えながらちほは志野屋へ向かいます。

手代に品を渡して帰っていると、後ろから手代に呼び止められますが、手代は話があるといいながら、もじもじしてなかなか言い出しません。

しばらくして手代は元吉が京都へ行ったと聞いて、ちほが元吉と恋人だと思っていたから驚いたといいます。

ちほはもう元吉とは縁が切れたといいます。それを聞いて手代はうれしそうで、ちほはむっとします。

手代はちほさえよければ自分と一緒になってくれないかといいます。ちほは驚きますが、手代は続けて説明します。

だいぶ前からちほのことを好きでいたが、自分は見た目も悪いし年も離れているから切り出せなかったといいます。

その間に若い元吉が現れ、諦めていたが、元吉が江戸を離れたことを知って、打ち明ける気持ちになったといいます。

手代が千穂に厳しくしていたのは、好きの裏返しだったといいます。

正直ちほはこの手代に恋心を抱けませんでしたが、何年もちほのことを思い続けてくれたと考えると、少し心が動きました。

とりあえずちほはうなずき、手代はほっとしたように喜びました。ちほは実感がわかず、しばらく家の近くの川岸でぼーっとしました。

閨仏(ねやぼとけ)

主な登場人物

大隅屋六兵衛…4人の妾をかこっている、大隅屋の主人。

りき…六兵衛長屋に住む1人目の妾。

つや…六兵衛の2人目の妾

ぶん…六兵衛の2人目の妾

こよ…六兵衛の2人目の妾

郷介…お寺の境内の小さな小屋で仏師をしている職人。あるきっかけでりきと知り合う。

  

4人の妾

20歳の時に六兵衛という男に連れてこられ、りきは六兵衛長屋に住んでから14年がたっていました。

現在、六兵衛長屋には4人の妾が同居していて、一番年上なのがりきでした。

その4人の女たちは全員見た目が良くなく、年も出身もバラバラでしたがその点は共通していました。

若いころは周りに住む住人の悪口に傷ついていましたが、今はまったく気にしていませんでした。

全員見た目が良くないのは、六兵衛の好みでした。りきは逆にこの顔のおかげで、六兵衛に拾われ、安楽な暮らしを手に入れたと思っていました。

六兵衛は場所を貸して、市場を集め、それをとりまとめている大隈屋という家の主人でした。

六兵衛は人当たりが良く、手際と調子も良かったので、5日に一回ほど、六兵衛長屋を訪ねたときも全員にまんべんなく話しかけます。

しかししばらくすると、お開きを告げ1人の女に目を当て、一緒に寝床に入るのがいつものことでした。

選ばれない妾は泣き出し、それを慰めるのはりきの役目でした。

いつも選ばれるのは1番若い"こよ"で、2番目に年上の"つや"はキイキイ声を上げて不満をまき散らします。かつてりきが同じ立場を味わったときは何も言えませんでした。

りきが妾になったきっかけ

りきの生まれは貧しい百姓で、不作の年は周りの家の娘が次々に身売りされていきました。

りきも売られるはずでしたが、顔が良くないとのことで、売られずに済みます。それを父は役立たずの無駄飯ぐいとののしり、母も父の機嫌を損ねるのが怖く見て見ぬふりでした。

唯一りきを励ましてくれたのが祖母で、祖母はりきにおたふくというのは福が多いと書くと教えてくれ、りきもこの顔のおかげで売られずに済んだと思ったのです。

その後りきは、江戸で下女として働くことになり、その店に客の六兵衛がやってきたのでした。

何度か六兵衛はりきを訪ね、りきを妾としてもらいたいといいます。力の働いていた店主はりきを妾に雇うことを怒ってくれますが、六兵衛は妻にも許しをもらっていると引きません。

りきは不思議に思い、六兵衛に自分のどこが良かったのか尋ねます。

六兵衛はりきのおたふくを眺めていると心底和む気持ちがするといいます。さらにおたふくは福が多いと祖母の言葉と同じことを言ったのです。

それでりきの気持ちは動き、六兵衛の妾になることに決めました。妾になってほしいという言葉も、女として扱われているように感じ嬉しく感じました。

お店を出ていくときに店主にいったん日陰に落ちれば戻ってこれないといわれます。りきはその言葉を思い返し、いま考えると全くその通りだと思いました。

2人目の妾

はじめ長屋に住むようになった時は、お世話係のおばあさんがいて、りきとおばあさん2人で過ごしていました。

長屋はみすぼらしかったですが、りきは満足に思っていました。しかし4年がたつと、その長屋に"つや"がやってきます。

つやが2人目の妾だと知った時も、怒っていいのか泣いていいのか分かりませんでした。つやもりきに対しては敵意をむき出しで、さっさと出ていってくれと言われます。

六兵衛にも出て行けと言われないか、りきは不安に感じます。しかし六兵衛の扱いは変わらず、りきの寝床にも六兵衛は通ってきました。

お世話係のおばあさんも2人目の妾がやってきたあたりから六兵衛に対して不満そうです。

りきは一つのところに何人もの女を囲い、わざわざ美人ではない女ばかり集める所に六兵衛の闇を感じました。

りきはそれ以来不安を抱えますが、あるものがその不安を取り去ってくれます。六兵衛がつやと寝床に入った時に六兵衛が持ってきた風呂敷の中から男性器の形をした木の棒が出てきます。

りきはそれを見ているといたずら心が芽生えてきて、引き出しの中から小刀を出して、その頭の部分に、顔を刻み込みます。

おかしくて思わず力は吹き出してしまいます。勝手に手が動き、耳や鼻を彫っていきます。

その小刀は祖母の形見で、小刀の扱いも祖母から教わりました。りきは祖母のようにうまく彫ることがで来ませんでしたが、祖母はそれでも味があるとほめてくれました。

完成した木の棒はどこか祖母に似ていました。

彫り師りき

次に六兵衛が訪ねてきたときに、りきが彫った木の棒について尋ねられます。なぜか六兵衛は嬉しそうです。

りきは地蔵の顔をした木の棒を六兵衛に荷物に戻しておきました。その木の棒を六兵衛は酒場で落としてしまいましたが、それを見た人たちがぜひ自分にも彫ってくれと言われたそう。

りきはそれを聞いて、もっと彫りたいと思います。りきは彫った人の正体を明かさない代わりに承諾します。

翌日六兵衛は木を彫るための道具や男性器の形の気の棒をたくさん買ってきて、りきに与えました。

そのころ3人目の妾の"ぶん"、4人目の"こよ"がやってきます。お世話係のおばあさんは腰を痛め、家事をりきがするようになりました。

六兵衛は子種がないようで、4人の妾の誰も妊娠しませんでした。木彫りを始めてからりきは六兵衛を恨む気持ちはみじんもなく、感謝するようになります。

普通の妾は30を過ぎる頃に放り出されるが、六兵衛は長屋にいさせてくれ、守ってくれたからです。

それ以来りきは、何十体も品を完成させ、その日の出来はひときわ満足のいくものができ、それをもちりきは家を出ます。

りきは道中で差配(管理人)の茂十と会い、差配にこれから根津権現にお参りに行くといいます。

茂十はついでに根津権現に住む楡爺というおじいさんにおにぎりを持っていくよう頼みます。

楡爺は六兵衛が連れてきたおじいさんで、家がないため根津権現の裏の物置小屋に住まわせていました。

六兵衛は連れてくるだけ連れてきておいて、まったく世話をしないため、茂十がお世話をしているのでした。

仏師の郷介

りきは神社につくと、賽銭を入れ彫り上げた仏を神様に見せていました。周りの人が見ても大丈夫なように、仏を彫った頭の部分だけを見せます。

りきはいつも仏を彫り上げるとこの神社に来て、罰当たりなものに仏さまを彫る無礼を詫びて、いい仏ができたことを感謝しに来ていました。

お参りを終え、帰ろうとすると、隣でお参りしていた職人風の男がその仏を見せてほしいといいます。

りきは拒否して、背中に隠そうとしますが手が滑り、仏の全貌が明らかになってしまいます。

その男はそれを拾い上げ、まるで円空仏だといいます。その木の棒が男性器を模したものだとは気づいていないようです。

りきはその円空仏をしりませんでしたが、そっくりだと男は言います。

その男は仏師で、名前は郷介と自己紹介しました。りきはそれを返してほしいといい、郷介もそれを返そうとしますが、そのときに郷介が持っているものが何なのか気づいてしまいます。

りきは正直にその木の棒の正体を明かしますが、郷介はちゃんとこの道具には魂が宿っているといいます。りきはそう言われて、泣いてしまいます。郷介もりきの涙が止まるまでそばにいてくれました。

それから、りきは最初のうちは5日に1回、次第に3日に1回家を空けるようになりました。

六兵衛やほかの妾たちには、仏像見学のためと言っていましたが、"つや"はそれにしても頻度が多すぎると不満そうです。

しかし、残りの2人の"ぶん"や"こよ"はりきの味方でした。これまで色々家事をしてくれたので、自分たちがこれからは手伝いをするといいりきをかばいます。

りきは後ろめたさを感じながら家を後にします。これは浮気になってしまうだろうかとりきは思います。

りきはお寺の境内の中の小さな離れの中に入ります。その中には郷介はいて、そこが郷介の仕事場でした。

りきはその中に入り、彫りかけの仏像を手に取ります。もうそれは閨(夜の道具)の道具などではなく、郷介から分けてもらった角材を使い、ほぼ仕上がりかけていました。

もうそのころには郷介と知り合ってから3か月がたっていましたが、男女の関係はなく、ともに仏像を彫るだけの関係でした。

また次に郷介と会う日を決めて、その小屋を後にします。りきはこんな幸せができるだけ長く続くようにと願います。

六兵衛の死

郷介と会う前の日の夜、六兵衛がやってきて、こよを連れて寝床に入りました。その翌日、こよが血相を変えてりきをゆすり起こします。

こよは六兵衛が朝になっても目を開けないといいます。いつもなら早朝に家を出ているはずなので、りきは怪しく思います。

りきが六兵衛のところへ行くと、六兵衛は口を開けたまま、薄目を開け呼吸をしていませんでした。

差配の茂十を呼んできて、手首の脈をとってもらいましたが、すでに六兵衛はすでに亡くなっていました。

りきはいつかこうなることを予感していました。あえて目をそらし、郷介との時間に浸っていました。

六兵衛の死に顔はりきが閨の道具に彫ってきた仏の顔に似ていました。

妾が葬式に出席できるはずもなく、10日近く4人は不安なまま過ごしました。

その間、自分たちがこれからどうしていくか考えています。4人とも変える場所がないことだけは同じでした。

4人の給料は出ていましたが、半分近く実家に持っていかれていて、貯金はほとんどありません。

差配の茂十は年末分まで家賃はもらっているからゆっくり考えていいと励ましてくれます。

そんなとき妾達が住む長屋に大隈屋の内儀(六兵衛の正式な妻)が訪ねてきます。

内儀は六兵衛が妾の家で死んでしまって、最後の最後まで迷惑をかけられたと文句を言っています。内儀は六兵衛の実の母親の影響かとつぶやきます。

それをりきは聞き、どういうことか尋ねると、内儀は言いづらそうにしながら、明かしてくれました。

六兵衛の闇の根本

六兵衛は妾から生まれた子供で、生みの母は六兵衛が本家に引き取られてから行方不明になったといいます。

周りの人は旦那に捨てられ、堀に身を投げたのだと言っていました。りきはそれを聞いて、六兵衛の抱える闇の真相に気づきます。

六兵衛の闇の根本には、父に見放された身寄りのない母親の存在が大きかったのだと気づきました。

そのことがあり、4人の女を妾として引き入れ、決して手放さなかったのだと思いました。

その話を内儀から聞いて、4人の妾は泣き出します。六兵衛は辛い家や世間から自分たちを救い出してくれたのでした。

内儀は薄い紙包みをりきに渡し、これでもう縁を切ってほしいといい、清々した顔でその場を後にします。

紙包みの中身は大した金額ではありませんでした。

結末

そんな時戸が開いた音がして、そっちを見ると郷介がたっていました。郷介はうちに来ないかとりきに言います。

そのままうなずけばこの心配から解放されますが、りきのあごは全く動きません。"つや"や"ぶん"、"こよ"がいるからでした。

つやはそのことを聞いて、裏切り者とりきをののしります。

ぶんはりきに郷介のところへ行ってもよいといいます。これまで我慢してきたのだから、その分幸せにならなければならないといいます。こよも小さくうなずきます。

その時、りきはこよとぶんの背後に六兵衛が見え、頼んだよりきと言われた気がしました。

りきは、タンスの中からりきが彫った男性器を模した木の棒を取り出し、差配の茂十の家へ駆け込みます。

茂十にこれは売り物になるかとりきは尋ねます。茂十は驚きますが、多分売り物になる、閨仏とでも銘打てば客もつくだろうといいます。

道具屋には自分から話をつけてくれるとまで言いました。

りきは礼を言い、さらにこれからもあの長屋に女4人で住み続けたいといいました。

茂十に郷介とのことはいいのかと聞かれますが、りきは時々会い、一緒に仏像を彫れればそれだけでうれしいといいます。

感想

「心淋し川」の最後の手代がちほのことを気になっていたというシーンはかなり驚かされました。

終始、ちほの目線で話が進んでいき、手代の名前すら最後まで出てこなかったので、ちほはそれまで手代に興味を全く持っていなかったことがうかがえます。

それでも元吉のことがあり、ちほになにか変化があったのかもしれません。最後には手代の告白をうなずき、告白を受け入れたのです。

「閨仏」では、社会や家族からも見放されたりきや他の妾たちを助けた六兵衛の優しさを見ることができます。

この時代でも妾はあまり世の中的に良くないもので、六兵衛の周りの人たちはかなり反対したことでしょう。

ただ六兵衛の正式な奥さんの気持ちを考えると、少しかわいそうな気もします。

心淋し川にはあと4つのお話があります。今後更新予定なので、続きが気になる方は是非SNSフォローしてお待ちください!

次のお話へ→(はじめましょ・冬虫夏草)