「流亡記(るぼうき)」ネタバレ感想 -著:開高 健(かいこう けん/たけし)-
2021/11/04
カテゴリー:小説
概要
このページでは開高健が書いた小説「流亡記」のネタバレ感想をしていきたいと思います!
中国が舞台のお話で、当時の秦という中国の帝国が、万里の長城を建設したころの時代背景となっています。
世界史など勉強していた方は、知っている将軍の名前が登場してきたりして、楽しいかもしれません。
主人公の"私"目線で話が進んでいくので、より現実を感じさせる作りとなっています。
目次
流亡記
登場人物
私…小さな町に住む男。
私の父親…雑貨商を営む。
始皇帝…大秦帝国の皇帝。中国を初めて統一した男。
城壁のある町
黄土の中に小さな町がありました。その町はすべて土で作られていて、石は高価な素材でした。
ここ数十年では、戦争の絶え間がなく、その町の一番の建造物は城壁でした。
土を水で練って、木の枠にはめ、乾かしレンガを作って、それを1つずつ積み上げて城壁は作られていました。
人々は壁の中で生まれ、壁のために生きていました。
壁は風によっても次第に削れていくので、壁の改修作業は定期的に行われます。
その日は学校も仕事も休みで、町中が壁の改修を行います。
町は誰にでも城門を開きました。町中の人たちは城門に列を作って、兵士たちを歓迎します。
星が好きな将軍がやってくると、町中を星で埋め尽くします。
その後、雲に包まれた虎が好きな将軍がやってきた時、服屋さんの子供が以前見た星のマークを書いてしまったとき、将軍が町中の人々を呼び出し、犯人探しをしました。
服屋の子供が書いたと分かった後、家族8人は全員殺されてしまいました。
子供5人は首を切られ、父親は目をえぐられ、母親は輪姦され、老婆は背骨を折られます。町の人は吐き気に耐えながらそこに立っていました。
落伍兵や脱走兵
時々訪れる落伍兵や脱走兵が町に訪れることもありました。その兵士たちに水や食料をせがまれると、町の人たちはしぶしぶ差し出しますが、彼らが門を出ると、町の男たちが襲い掛かり、彼らを殺します。
落伍兵が門の外からやってきて、どれだけ罵倒されても哀願されても門番は門を開けませんでした。
そのあと、落伍兵がどこかの軍隊に入って、仕返しに来ないように、町中の男たちは彼らの後を追いかけ殺しました。
私たちの町を占領した兵士たちは、時々外を歩いている避難民を見つけると、行って資源を強奪しました。
しかし、大体の避難民は食料資源などほとんど持っていなかったため、兵士たちは彼らに失望し、惨殺しました。
町の人たちは、兵士たちを養うために資源がほとんど残っていなかったため、避難民を町の中に入れてあげようという人は1人もいませんでした。
門の外には避難民たちの死体や衰弱した人間がいました。その処理をするのは兵士たちではなく、町の人たちでした。処理をした者は2,3日口をききませんでした。
1人の将軍が去ってもまたすぐに新しい将軍が町を占領します。
人々は貴重品や資材などを穴の中へ隠し、教師たちは生徒を連れて、丘の上へ避難します。
それを見た兵士たちは、容赦なく矢を放ち、それを避けるために私たちは押し合い殴り合い我さきへと逃げます。
その様子を見た兵士たちはゲラゲラ笑っています。教師と私を含む生徒はなんとか穴の中へ避難できました。
その中で教師は昔のもっと人と物が満ち溢れていた時代の話をしますが、生徒たちは走り疲れ貧血症状が出ていたので、教師を汚い言葉でののしります。
"私"の父
私の父は、農業をしている傍ら、雑貨商をして生計を立てていました。
父は商品の仕入れに立ち会うだけで、あとは店の前のひなたにしゃがみ込み、人の動きを眺めていました。
畑仕事が終わると、半裸で土に肌をぴったりつけ何時間もぼんやりとしているような人でした。
父は死後の世界を楽しみにしていて、希望に満ち溢れていました。その世界へ行く条件として、唯一首と胴体がつながっていることが条件だと父親は話しています。
ある時父親は殺されますが、私は死を見慣れていたので何の感情も動きませんでした。
私がベッドで寝転んで本を読んでいて、母親が料理をしているとき、外から叫び声が聞こえます。
出ていくと父親が頭から血を出して倒れていました。その向こうには笑いながら歩く兵士たちがいます。
周りにも町の人たちがいましたが、いつものことのように気にしてはいませんでした。
父の死後、私が跡を継ぎ、雑貨商を営むようになって、ようやく戦争が終わります。
ある北のほうの貴族が帝国を完成させ、皇帝となったのです。
はるか遠い田舎町の雑貨商へは、いろんな国の行商人から噂話として知ります。
いろんな国はその帝国に戦争を挑みますが、次々に敗れ併合され、より大きな国になっていきます。
皇帝は才能があれば、どんな国籍のものでも権力を与え、才能を思うように発揮させます。
周りの国々も同じように才能のあるものに権力を与えようとしますが、才能のあるものを区別することができず、敗北していきます。
私が25歳の夏、一人の毛皮商人が最後の帝国の陥落と首都建設の情報を伝え、背の低い北の方の貴族が皇帝となりました。
始皇帝による少しの平和
首都は咸陽(かんよう)となり、私たちの町からはかなり遠い都市でした。
行商人から皇帝の妾のための宮殿が町を15個集めて、空に向かって重ねた面積と体積を持つと聞きます。
さらに妾は今23人いて、それぞれにこれだけの宮殿を用意するようでした。
皇帝は内乱を避けるために、幕府や将軍をすべて給料制にして、すべての決定権限は皇帝にあるとしたのでした。
私たちはその皇帝のことを始皇帝と呼ぶようになります。
始皇帝はさらに計量器や車や田の形も統一するようにし、文字まですべて最下級階級の奴隷が使う文字に統一させました。
しかしすでに戦争はやみ、支配者も難民も出なかったため、町は数年間とても平和でした。
音楽や料理やにおいが町中にあふれ、亡くなった人の追悼の儀式なども復活します。
脱走兵などが町を襲っているという情報がたまに入ってきますが、不思議なことに私たちの町には一度も襲撃がありませんでした。
私は父と同じように日向ぼっこをし、肌にピッタリ土をつけて寝転ぶようになります。
1本の綱
しかし恐怖は突然やってきます。
城門はよく出入りする百姓たちのために常に開かれていました。そこへ行商人のような一団が入ってきます。
だれも彼らが兵士であるとは思いませんでした。先頭の男が笛を吹くと、一人の男が綱を持ち一直線に走り、逆側の城門へたどり着きます。
笛の拭いた男が面倒そうに、綱の右側に立っている18歳以上の男は集合せよといいました。
いい終わった瞬間、それまでぼーっとしていた兵士たちが右側の人たちに向かって襲い掛かります。
家の中へ逃げたものもつかみだされ、病人も老人もみなつかまります。一方で左側の人たちには兵士たちは見向きもしません。
さらに兵士たちは粘着力がなく、自分の受け持ち区間の外にいる人間には見向きもしないようでした。
私は自分に向かってくる兵士に殴られる前に、自分から綱のほうへ歩いていきました。
捕まった人間は綱で縛られ、首都へ連れていかれます。ある町へ私たちは連れていかれ、北方の国境に長城を作るために集められたと初めて目的を伝えられます。
皇帝は大秦帝国を匈奴(きょうど)の侵攻から守るため、長城を建設することを命令したのでした。
以前の各国の王様も侵攻から守るため、国境を壁で覆っていました。皇帝はその途切れ途切れになった壁をつなぎ合わせて、大きな壁を作ることを提案したのです。
私たちは首都までたどり着くまでに無数の町を通り過ぎますが、どの町も倉庫はからっぽで、広場に人影はありませんでした。
朝になり町を出ていくと、丘や森の中から隠れていた男たちが町へ戻っていく様子が見えます。
兵士たちのノルマ
首都へ近づいてくると、ほかの狩りだされた男たちの集団と出会います。
集団と集団が出会うと大きな1つの集団となり、規模が大きくなると、完全武装した兵士が私たちを監視するようになりました。
逃げようとしたり、抵抗したものがあれば、容赦なく切り殺され、病人や老人たちが倒れたりしても切り殺され、その場に放置されました。
必要以上に拷問すると、労働力が減るため、いくらかの注意は払われていました。
しかし実は、兵士たちも恐怖に震えていたのでした。ある必要人数を運べなかったり、遅れたりすればその兵士は殺されたり、島流しにされるのでした。
兵士たちは衝動に駆られて男たちを殺すことができません、その点でいうと、兵士たちも私たちも同じ資格を持つのでした。
皇帝の新体制ではいかなる人間も特権を持ちません。
首都へ到着した私たちは官庁職員へ自分の出身地と名前を告げます。職員は竹の板に文字を刻んでいきます。
職員もノルマがあるようで、ある数を満たした職員はまだ列があるのに、さっさと帰っていきました。
そうして名前が登録されると、額に入れ墨を受けに行きます。医者もノルマがあるようで、100人の額を裂くと、さっさと帰っていきました。
残された囚人は廊下や階段で眠り、また翌朝額に傷を受けに行きます。
拷問される人々
咸陽では宮殿を作る工事があり、みな古シャツの上に縄一本を巻き付けた格好で、作業をしていました。
宮殿は息をのむほど美しいものでしたが、首都の外にはおびただしいほどの死体があります。
ノルマを達成できなかった憲兵や警官たちが殺され、暗殺容疑者、よって皇帝を侮辱したものなど疑わしいものはすべて殺され、首都の外へ放置されていました。
私たちは広場で変形を受けた死体も目にします。人々は舌を切られ、鼻や手足を切断されていました。それを執行した執行官はとても冷静で慣れているようでした。
執行官は、人々がどれだけ苦しんでどのように死んだのかを記録しているようでした。出版業者は医学書と星座表と農芸書を除くすべての書物の発行を禁じられ、図書館は空っぽでした。
私服の刑事が学校に忍び込み、皇帝に不利な講義をするものを次から次へと逮捕します。中にはでっちあげなものもありました。刑事も1日のノルマが設定されていたのです。
私たちは長城建設のための人数がそろうまで、道路工事などをやらされました。宿舎は24時間監視されて、逃亡できそうにありません。
博打や散歩する者もいましたが、大抵のものが疲れていたので寝ることを選びました。
寝具などなかったため、じかに土の上で寝ていたので、土は汗や垢や精液のにおいであふれかえっていました。
長城建設の開始
いよいよ奴隷たちがそろい、広場で6日間にわたって閲兵式が開かれました。皇帝は顔を大衆の前にさらす危険を恐れ、1度も顔を見せませんでした。
6日目の最後の晩、私たちのあるものが叫び始めます。その叫びが伝わり、私たちは祖国防衛と長城建設を誓い、踊り狂いました。
私たちは咸陽から長城へと出発しました。
その途中匈奴が襲ってくることもあり、夜襲によって多くのものが虐殺されました。
長城の規模はとても大きかったため、壊滅した部隊の情報が2年たってやっと一番遠い部隊へと届くほどでした。
蒙恬(もうてん)将軍は、この事業の最高責任者で、全防衛軍と労働部隊を管理していました。
その蒙恬将軍でさえも、この長城の建設の意味においては、私たち奴隷と同じく理解してはいませんでした。
長城の建設は私たちの町の壁と同じ仕組みで建設されていて、とても原始的でした。
黄土を練り、日干し煉瓦を作ると、それを1つずつ並べていきました。
午後3時
私たちはちょうどある王の遺跡の終わったところから建設を開始しました。
捕虜の匈奴2人連れてきて、穴を掘ると、1人ずつ首を切った奴隷たちをその中にひざまずかせ、その2点から建設を開始します。
その匈奴たちは長城の全重量を永久に支えることになったのです。
私たちは黄土地帯から土や日干し煉瓦を運び、置くという単純な作業を繰り返しました。
これらは細かな作業に分割され、水をくむものはひたすら水を汲み、レンガを運ぶものはレンガをひたすら運びました。
私たちは砂漠の中にテントを張って、それを移動させながら生活しました。
毎日がただの繰り返しと知りながら、一日の始まりにレンガを担ぐ時には新鮮な重量を感じます。
しかしいつも午後3時を過ぎるころには、全身から力が抜け、足に力が入らなくなりました。
監視役の男が叫びますが、何の意味も成しませんでした。
無駄な努力
私たちが作業している間に、裸の馬にまたがった遊牧民の集団をよく見かけましたが、そのたびに守護兵士たちが遊牧民を殺して回るため、姿を見せなくなりました。
しかし、夜になると、彼らは姿を現し、兵士や囚人たちを自由に殺して回りました。
彼らの野戦術は高度なもので、私たちは彼らの接近の気配を感じることができませんでした。
そして援軍が駆けつけるより早くその場をかけ去ります。
兵士たちは彼らを追いかけることに血眼になり、足跡をたどり彼らを探しますが、深追いしすぎると必ず重傷を負うか全滅するかしてしまいました。
匈奴は時々、建設が完了した長城を乗り越え、こちらの領地に入ってくることもよくありました。
私たちはそれを知り、この長城の建設が無駄なものだということを悟ります。
匈奴たちの馬は私たちの国の馬たちより、耐久力と脚力に恵まれており、何も鎧など来ていないのにも関わらず、私たちに襲い掛かり、略奪や殺戮をほしいままにします。
結末
時々奴隷の中から、逃げ出すものがいましたが、そういったものは大体兵士が追いかけ殺してしまったり、逃げられたとしても砂漠の真ん中で野垂れ死にするだけでした。
町にたどりついたとしても、額の入れ墨があるため、すぐ処刑されてしまい、私たちは完全に退路をふさがれていることに気づきます。
私はいずれ反乱がおきることを信じてやみませんでした。私は唯一この無駄な努力から逃れる方法を思いつきます。
自分が匈奴となり、匈奴たちに受け入れてもらうほかないと考えました。彼らは長城を必要としない唯一の民族だったからです。
私はレンガを下ろし砂漠へ行こうと決意します。
感想
以上となります!最後は無駄な努力だと気づいた主人公の"私"が匈奴に仲間へ入れてもらうと決心するところで終わっています。
実際の中国の統一の歴史と万里の長城の建設はこの小説の中と同じ歴史となっていて、そこへ私という具体的な主人公を入れ込むことでよりリアリティを感じることができる作品でした。
才能のあるものに権力を与えたり、すべての人々を同じ権力を与えることで反乱を抑えるといった始皇帝の賢さを感じることもできますね。
開高健さんの作品は他にもネタバレしているので、良ければそちらもご覧ください!
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