【ネタバレ感想】「落日(らくじつ)」 著:湊(みなと)かなえ【ネタバレ後編】

2022/10/10

カテゴリー:小説

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概要

このページは、湊かなえさんの「落日」のネタバレ感想後編となっています!まだ前編ご覧になっていない方はそちらを先にご覧ください!

真尋と香は笹塚町一家殺人事件の被害者、立石沙良の嘘について知ります。香は昔の記憶の中の沙良とのギャップに戸惑っているようです。

事件の犯人である沙良の兄の力輝斗について調べるため、彼を精神鑑定した葛城医師の所へ2人は出かけます。

前編同様、香の視点を青真尋の視点を赤で示しています。

目次

落日

登場人物

・長谷部香(はせべ かおり)…世界的に有名な映画監督。

・甲斐真尋(かい まひろ)…大畠先生にスカウトされアシスタントを勤める。

・甲斐千穂(かい ちほ)…真尋の姉。

・大畠凛子(おおばたけりんこ)先生…脚本家。

・立石沙良(たていし さら)…殺人事件の被害者。力輝斗の妹。

・正隆くん…真尋のいとこ。外科医。

・橘イツカ…正隆君の高校の同級生。

・立石力輝斗(たていし りきと)…笹塚町一家殺人事件の犯人。死刑が確定している。

・明神谷(みょうじんだに)医師…葛城医師の上司。

・葛城(かつらぎ)医師…力輝斗を精神鑑定した医師。明神谷医師の助手で告発を行った。

いじめ

中2となった香は、違うクラスの下山兼人(しもやま かねと)が無視されていると聞きます。

祖母から香の父が正義感にあふれた人で、中学生の時いじめられていた子を助けたと聞いていたので、香は父のようになりたいと決心します。

3年生となり下山と同じクラスとなります。体育の授業を受け、4時間目の授業中に後ろの掃除用ロッカーの中から手足と口にガムテープを貼られた下山が出てきます。

その日は酷暑で1時間以上閉じ込められていたようです。

下山は失禁していて、目は白目をむいています。にやにやしてみている数人の男子を見て、香はその子の机を蹴り上げます。

全校集会で校長先生が説教をしている中、香は自分のしたことを後悔していました。

その日以来、仲のいい子は声を掛けてくれましたが、それ以外の子は目を合わそうとせず、恐れているようでした。

それを知った祖母は泣いて喜んでくれましたが、下山からは直接の感謝の言葉はありませんでした。

ある時、下山から公園に来てほしいという手紙を受け取ります。

公園へ行くと、下山が待っていて「夏休みに映画へ行かないか」と誘われます。風が吹いて彼から濁った海の匂いがして、誰かが彼のことを海藻と言っていたことを思い出します。

2時間も彼の隣に座れないと思い、香は拒否すると下山は肩をつかみ、無理やりキスをされます。

唇に粘液をこすりつけられた感触がして、体当たりしますが力づくで押し倒され彼の手が胸の上で止まります。

香は砂を投げつけ何とか逃げ出します。「臭いし気持ち悪い」と言い残し香は自転車で全力で逃げます。

家に帰って石鹸で唇を何度もこすり、気持ち悪さに体が震えます。

姉の死

帰りのタクシーで監督に真尋が心療内科にかかったことがあるかと聞かれます。

真尋は自分が姉の死を受け入れられず、生きていると思い込んでいることに関して監督が詮索してきたことに憤ります。

東京へ帰ってきてから監督と再会し、真尋は自分の姉の千穂について語り始めます。

高1の時、自転車に乗って横断歩道を渡っていた時に車に轢かれて千穂は亡くなります。犯人はすぐ救急車を呼び自首しました。

千穂が信号無視をして飛び出してきたと証言していて、会社をクビにならず刑務所に入ることもありませんでした。

結婚1年目で子供も次の月に生まれたそうで、家族そろって家に謝りに来ます。真尋は赤ちゃんを連れてきた犯人をずっとずるいと思っていました。

母はお見舞いに来た犯人たちに対して、「おかげでけがも回復し、パリに留学させることができた」と彼らに語ります。

父も調子を合わせて、そういうことだからもう帰ってほしいと彼らを追い出します。

それ以降、母は姉が生きているとして話をするようになり父や真尋もそれに合わせます。

母のいないところで、父にどうしてこんなことを続けるのか聞いてみると、生きていると信じていればその人の中で姉は生きることができると言います。

監督は自分も心療内科にかかっていたと中学時代の同級生の死について真尋に語ります。

逆上がり

真尋は笹塚町へ来て、大畠先生に笹塚町を紹介することになっていました。父と会う約束をして、喫茶店シネマで待ち合わせします。

父は先に喫茶店についていて、常連さんたちと仲良さそうに話しています。来年でシネマは50周年を迎えるそうでまた記念品を作ろうという話になっているそう。

20周年の時はマグカップを作って飾り、その後皆持って帰ったと言います。真尋はそのマグカップを小5の時に割ってしまったことを思い出します。

その代わりに姉の千穂と共にマグカップを父にプレゼントしていたのでした。

真尋は実家へと帰ると、姉の部屋へ入ります。部屋は事故にあった日からそのままになっていて、引き出しを開けると日記が入っています。

日記にはコンクールで入賞できなかった日のことが書かれていて、指を大切にするあまり運動もしてこなかったため甘さにつながっていたのかもしれないと書いてありました。

その日からできない逆上がりに挑戦していたようで、姉がへたくそなあまり、「何をしてるの?」と少年に声を掛けられたと書いてあります。

その人のアドバイスもあり、無事に逆上がりができたようで、今度会う日にプレゼントを持っていったようです。

家に持って帰ることができないと半分帰され、お礼としてジュースを彼は買ってくれます。千穂は「いくらですか?」と尋ねると彼は「バイトするから」といったようです。

この日で日記はとりあえず終わりで、彼が携帯を持っていないため手紙をやり取りすることにしたと日記には書かれています。

真尋と父は姉と母が眠る墓へお参りへ行きます。父は千穂が誰かに渡すつもりだったネコ柄のマグカップを墓に供えます。

真尋は墓に供えるより、姉が渡したかった相手に渡そうと提案します。

クラスメイトの自殺

下山兼人は自殺し、クラス中は大騒ぎになります。いじめの首謀者たちは笑っています。

下山家の意向で生徒だけでなく教職員も葬儀に参加することは控えてほしいと言われているそう。香は最後まで自分は下山の味方のつもりで心に怒りをたぎらせます。

そんな中、担任は香だけを呼び出し、2人だけで話そうと言われなかったかと尋ねられます。

その時下山につかまれた感触を思い出し動悸がして、保健室に運ばれて帰らされます。

祖母は香だけ事情聴取されたことに怒っていて、その理由を家へ尋ねてきた先生たちが語ります。

どうやら下山の遺書には、香に対して名指しで謝罪の言葉がつづられていて、最後のページまでごめんなさいとびっしり書かれていたんだそう。

香は公園で映画に誘われ、断り、キスをされて突き飛ばしたと気分が悪くなりながら話します。先生たちはまるでいじめをしたのが香のように質問を繰り返します。

夏休み終わりに学校へ行くと、校門の近くに女性が立っていました。その女性は「どうして映画くらい一緒に行ってくれなかったの?」と尋ねてきます。

香は下山君はいじめを受けていたと語りますが、彼女はそんなことは知っていたと話します。下山は「味方もいるし大丈夫」と母に言っていたそう。

自己満足のために優しくしていたと非難され、香の中で何かが切れます。教師が駆けつけてきて、下山の母親は引き離されます。

その後心療内科に通いながら大学まで通い、貿易会社へと就職します。ふと夕陽を見て、下山を思い出します。下山は一緒にどんな映画を見たかったのだろうと香は考えます。

2年間かけて、ようやく下山家を訪ねます。その後、下山の姉から手紙が届き、中には映画の前売り券と破り取ったノートのページ、そして便箋が入っていました。

映画はかなり昔の夏休みの人気アニメ作品でした。ノートには涙のあとと共に母親への感謝と謝罪が書かれています。

便箋には、下山の姉がノートを破り取って2ページ目以降にごめんなさいと書いたと手紙につづられています。

自殺の原因が下山の母にあることを母は受け入れられないと考えて、ノートを破り取ったんだそう。

それから5年間、下山兼人の最後の1時間を描くために香は下山家に通い続けます。

千穂の好きな人

真尋と父は叔母さんの家に行き、姉の千穂の好きな人について知らないか叔母さんに尋ねます。

彼女は一度千穂が男の子と一緒に歩いているのを見て、千穂と真尋の母に話したと言います。しかし、暗くて顔まで見えていなかったようです。

姉は当時珍しいカメラ機能付きケータイを持たされていたので、それの充電をしに専門店へ持っていきます。

次の日は大畠先生と待ち合わせして、事件の現場を車で巡ります。近くのラーメン屋さんに入ると、店主のおじさんが殺人事件の取材かと尋ねてきます。

店主はいつも親子3人で来る仲良しの立石家のことは知っていましたが、息子がいることすら知らなかったと語ります。

ラーメン屋のおばさんは立石力輝斗を見たことがあるようで、顔の整ったイケメンだったと話します。

その後、カフェを経営する立石沙良と同級生の橋口陽菜(はしぐち ひな)に話を聞くと、真尋の姉の千穂は沙良と仲が良かったようです。

立石家と長谷部家が昔住んでいたアパートに今も住むおばあさんに話を聞くことができて、そのころから立石家の下の部屋に住んでいるそう。

立石家が引っ越してきてから父親の怒号や叩きつけられる音がして、兄の力輝斗はよくベランダに出されていたそう。

妹の沙良はそれをみてけらけら笑っていたようです。帰りに大畠先生はあとは1人でやれそうかと尋ねます。

初めから大畠先生は真尋に脚本を書かせようと企んでいたようです。姉の携帯の充電が完了し、暗証番号に立石力輝斗の誕生日を入力し、解錠します。

携帯の中身を見た真尋はある鉄塔へ向かいます。スコップで穴を掘ると手紙の束が出てきます。物語が完成したと真尋は長谷部監督へメールを送ります。

真尋の脚本

甲斐千穂は中2の時、ピアノのスランプに陥ります。彼女の出したい音を出すと決まって賞を取り逃すのでした。

逆上がりに挑戦し、仲良くなった少年に自分の演奏した音を聞かせると、千穂が出したい音の方をほめてくれます。

その少年は夕方から日付が変わる前までここにいて、アルバイトもコミュニケーションがうまく取れずすぐやめていました。

千穂は夕日が良く見える鉄塔を紹介し、その帰りに叔母さんにその少年と一緒にいる所を見られ、母にひどく怒られます。

いつもより早く公園に千穂の母がきて、千穂の夢の邪魔をしないでほしいと少年に伝え、それから少年は公園に現れなくなります。

高校生となった千穂は、同級生だった少年の妹と仲良くなります。千穂は妹を信用していませんでしたが、少年のことは気になっていました。

ある日、少年の妹から「兄が自殺未遂をした」と送られてきたのが千穂のケータイに残された最後のメールでした。

少年の妹は自宅で兄と千穂を鉢合わせさせて、どういう反応をするか観察しようと企んでいたのでした。

赤信号を渡った少年の妹についていった千穂は事故に逢い、少年もそのことを知ります。少年はようやく慣れてきたバイト先を辞め、引きこもるようになります。

ただ、アイドルを目指す妹の身辺調査があると知った父は暴力をふるうのを辞めていて、妹は兄に何度も就職するよう繰り返していました。

そしてクリスマスイブの日、妹の元にはオーディションの不合格通知が届き、整った顔をした兄のことを妹は憎みます。

歌もダンスも完璧で、落ちたのは兄が無職だからだと怒りをぶつけます。兄はぽつりと誰かを貶めようと企んでいるお前の裏の顔のせいで落ちたんだよとつぶやきます。

妹は怒り、あんたの彼女を突き飛ばして交通事故に見せかけて殺してやったと嘘をつきます。

兄は妹の握っていた包丁を奪い、何度も妹を刺します。少年は一階で両親が寝ていることにも気づかず、家に火をつけ立ち去ります。

警察に捕まってからもどうでもよくなり、すべての質問にはいと答えていると死刑になっていました。

真っ暗になった彼の世界にがともされようとしています。

結末

香は真尋に物語が完成したから笹塚町まで来てほしいと連絡を受けて、喫茶店シネマで待ち合わせします。

最後の場面で希望へとつながるのが長谷部香になるように原稿は締めくくられていました。

真尋はバーのマスターにいって、記念のマグカップを持ってきてもらいます。そこには香の父のヒロタカの名前が書かれたマグカップがありました。

バーのマスターは香の父がこの喫茶店の常連だったと明かし、死んでしまった日も夕陽がきれいに見える場所を探しに行っていたと語ります。

マスターは来週もスターウォーズのリバイバルがあるからと張り切っていて、とても自殺ではなく事故だったと話します。

マスターに父が最後に見た映画を聞くと、コメディ作品の名前を言われ、ここに来なければ知ることができなかったと遥かな希望を抱きます。

まとめ感想

中学生の時自殺した下山兼人による影響で、香は下山の死の1時間前にフォーカスした映画を作ることとなります。

真尋の姉の千穂が自殺していたことも明らかになり、そのことが笹塚町一家殺人事件にも大きくかかわっていました。

力輝斗が妹を殺したのも、妹の虚言壁が原因だったようです。結末では香の父が自殺ではなく事故だったかもしれないことが判明し、香にも希望を抱かせるエンディングとなりました。

後半畳みかけるように、事件の真相が明らかになっていって、とてもテンポよく爽快感を感じさせる作品でした。ぜひ書籍版の方も手に取ってみてください!

当サイトでは他にも「クジラアタマの王様」アキラとあきらなどもネタバレしてますので是非ご覧ください!SNSもフォローお願いします!!

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