【ネタバレ感想】「落日（らくじつ）」 著:湊（みなと）かなえ【ネタバレ前編】

落日

登場人物

・長谷部香（はせべ かおり）…世界的に有名な映画監督。

・甲斐真尋（かい まひろ）…大畠先生にスカウトされアシスタントを勤める。

・甲斐千穂（かい ちほ）…真尋の姉。

・大畠凛子（おおばたけりんこ）先生…脚本家。

・佐々木信吾（ささき しんご）…真尋の元カレ。

・立石沙良（たていし さら）…殺人事件の被害者。力輝斗の妹。

・正隆くん…真尋のいとこ。外科医。

・橘イツカ…正隆君の高校の同級生。

・立石力輝斗（たていし りきと）…笹塚町一家殺人事件の犯人。死刑が確定している。

・明神谷（みょうじんだに）医師…葛城医師の上司。

・葛城（かつらぎ）医師…力輝斗を精神鑑定した医師。明神谷医師の助手で告発を行った。

ベランダの仕切り板

幼稚園に通う「香（かおり）」はドリルを解けなかったとき、「母」にベランダに出されていました。

初めに外に出されてから抵抗しなかったせいか、正答率が7割を下回ると毎回外に出されるようになります。

いつも1時間きっかりで中に入れてもらえるので、次第に慣れていきます。

雪がちらつき寒くなってきた日も外に出され、隣のベランダとの仕切り板の方を見ていると、板の下から白い手がのぞいています。

同じように外に出されているのかと思い、板を何度かノックし、2人はコミュニケーションを取り始めます。

香は自分の名前を地面に書きますが、向こうは星とか猫の絵しか描かず、まだ文字が書けないのだと察します。

10日ぶりに外に出され、仕切り板の方を見ると、また白い手があります。地面に絵を描いて2人は意思疎通をします。

ふと見ると、反対側の手に赤い水ぶくれがあり、どうしたの？と香は聞きますが、返事はありません。

次の日の夕方、母と買い物に来ていると、母の知り合いそうな2人連れと出会います。母はお隣の「タテイシさん」とその娘の「サラちゃん」だと教えてくれました。

どうやらベランダにいたのはサラちゃんのようでした。

今度の週末に隣のインターフォンを鳴らしてサラちゃんに会いに行こうと決心します。

しかし、土曜日の午後に父が自殺し、母とかおりは母の実家の祖母の家に行くことになります。

また会いたいねという手紙をポストに投函して、かおりはその地を離れます。時がたち、かおりが18歳になったころ、サラちゃんが殺されたと知ります。

真尋への脚本の依頼

「真尋（まひろ）」は東京の私大へ進学し、映画製作同好会へ入ります。

1年生の夏に脚本教室のセミナーで「大畠凛子（おおばたけりんこ）先生」からスカウトされ、大学を中退して脚本家の道へ進んでいました。

しかしそれから10年、あまり良い結果は得られていませんでした。真尋は給料を払ってくれている大畠先生に対し、結果を出せていないことを申し訳なく思っていました。

さらには大畠先生自身も最近ではあまり調子が良くないようです。恋愛に関しても当時付き合っていた「佐々木信吾（ささき しんご）」の浮気現場を目撃し、別れていました。

ある日、「長谷部香（はせべ かおり）」という映画監督から新作の脚本について話を聞きたいとメールが届きます。

メアドは制作会社に勤める佐々木信吾から聞いたと書いてありました。長谷部香は海外で大きな評価を得ている有名な映画監督で、もちろん真尋も知っていました。

有名がゆえに、信吾がなにかたくらんで長谷部香にメッセージを遅らせたのではないかと疑問に思いながらも、待ち合わせ場所に向かいます。

監督はこちらの顔を知ってはいないようで、真尋から長谷部監督に声を掛けます。

話をしていると、監督は真尋が唯一脚本を手掛けた作品「茜色のメロディー」を見たと言い、そのロケ地について真尋の地元の笹塚町の神池山だと言い当てます。

どうやら監督は笹塚町に3年住んでいたようで、真尋の姉の「千穂（ちほ）」と幼稚園の同級生だったと語ります。

真尋は姉の千穂が今、ピアニストとして世界中を飛び回っていると説明します。

監督は「笹塚町一家殺害事件」について脚本を書いてほしいと依頼します。

立石（たていし）家の妹と両親が兄に殺された事件で、その兄は中学を卒業してから引きこもりでバイトもすぐクビになっていたという噂でした。

真尋はその事件についてあまり知らないと答えます。監督は殺された妹、立石沙良（さら）と同じアパートに住んでいたそう。

続けて、立石沙良ちゃんがどう生きたかを知ってそれを世間に伝えたいと語ります。

昔の記憶

笹塚町を母と出ていってから、母の実家の近くの小学校へ転入します。もうこのころには母はドリルをやるよう言わなくなっていました。

ある日、学校で借りてきたロビンソン漂流記の絵をいくつか書いて母に見せて「映画みたいでしょう？」と尋ねると母の表情は厳しくなります。

父は「映画を見てくる」と言ってでかけ、自殺していたのでした。

ノートが耳の横をかすめ飛んでいき、「自殺したのは自分のせいだって言いたいの？」と母は泣き出してしまいました。

母は香の首を絞めてきて、それを見た祖母に止められます。祖母は母を慰め、香には母を許してやってくれとなだめます。

その日以来、夜香を母が見ると、父に見えてしまうようで心療内科に通うようになり、香は父方の祖父母に引き取られることになります。

イツカの話

父に法事で実家に帰ってこいと言われ、笹塚町殺人事件について調べたいと思っていたこともあり、真尋は実家へ帰省します。

親戚の集まりで来ていた、いとこの「正隆（まさたか）」に母のお悔やみを言われます。彼は外科医をしていてボストンに今住んでいると言います。

正隆君は笹塚町一家殺人事件について詳しいようで、後日話を聞くことになります。おしゃれなワインバーへ行くと、正隆君と共に「橘イツカ」という女性がいます。

どうやら彼の高校の同級生のようで、殺された沙良さんの親友だったそう。イツカは中3の時、沙良に声を掛けられたそう。

沙良は心臓が弱いと語り、陸上をしていたイツカのことをかっこいいと慕い、休み時間を共に過ごすようになりました。

しばらくして沙良に「森下（もりした）」という彼氏ができ、3人は仲良くなります。3人で遊んでいたある時沙良が自分の家族事情について語りはじめます。

沙良の実の両親は交通事故と病気で亡くなっていて、引き取った叔母とその夫と共に生活しているそう。叔母の夫とその連れ子の兄は暴力的で沙良にはあざもできていました。

しばらくして、同じクラスの「佐倉（さくら）」も含めて4人で遊ぶようになりますが、沙良が佐倉と浮気しているところを森下は目撃します。

結局沙良は佐倉と付き合い、森下はストーカー化しているという噂と共に不登校になってしまいました。

イツカの陸上の大会の3日前、沙良に誘われ佐倉の祖母の家へ向かいます。沙良は夕日を屋根の上から見ようと、イツカに手を差し伸べますが、バランスを崩して沙良は手を放し、イツカは地面に叩きつけられます。

そのせいで県大会にも出場できず、部活を引退することになりました。入院していたころ、佐倉が訪ねてきて、沙良の話になります。

沙良の話はほとんどが嘘のようで、両親は本物で、兄は父親が違う兄弟だといいます。

さらには心臓病なんて持っていないようで、沙良の小学生時代の同級生は皆彼女がうそつきだと知っているようです。

佐倉は沙良を呼び出し、嘘をついていたのかと尋ねると、悪びれもせず開き直り、「これからは無視してくれていい」と言ってきたそう。

イツカも沙良に電話を掛けますが、同じようなことを言われ電話を切られます。

そこまで話してイツカはトイレに席を立ちます。杖を持っていて、まだ後遺症が残っているようです。

香の父

香の父方の祖父母は優しく、祖父は香の父が好きだった映画のコレクションを見せてくれました。父が好きだったというスターウォーズを祖父と香は見ます。

隣で一緒に見ていた祖父は涙を流していました。父が人生最後に見た映画は何だったのか気になり、調べてみると笹塚町の映画館でスターウォーズのリバイバルがあったと知ります。

もしスターウォーズの続編があると知っていたら、父は自殺しなかったのではないかと香は映画に興味を持ったのでした。

ネコ将軍

笹塚町から帰る日の朝、父と地元の喫茶店に向かいます。同じビルにはもう閉店した映画館が併設されていて、その喫茶店の名前はシネマというようです。

東京へ帰り、監督にイツカから聞いた話をそのまま伝えます。監督は自分の知っているサラちゃんとのギャップに信じられない様子です。

その席には正隆君も同席していて、イツカは嘘をつくようなタイプじゃないと念を押します。

監督は自分が昔ドリルができなかったら外に出され、その時隣に住んでいた沙良ちゃんと知り合い、絆を深めていたという話を聞いて、香と正隆君は衝撃を受けます。

正隆君は沙良のことを天才を引きずり下ろすことで快感を得る人だと評価します。

その時外に出されていたのは沙良ではなく、そのお兄さんの「立石力輝斗（たていし りきと）」ではないかと疑問を提示します。

真尋はそのお兄さんのことを知っていて、皆に「ネコ将軍」と呼ばれていたと話します。

ネコ将軍は高校生くらいで夕方くらいになると猫模様の巾着を持って公園にきていました。ネコ将軍が来ると、公園の野良猫が集まってきます。

彼はとにかく痩せていて、服はよれよれだと真尋は語ります。

真尋は小さい頃に虐待を受けていたのなら死刑は免れたのではないかと正隆君に尋ねますが、立石力輝斗の精神鑑定は明神谷（みょうじんだに）医師が担当したと語ります。

明神谷医師は一度彼の助手の葛城（かつらぎ）医師が鑑定した結果に対して、私情が混ざったものだとして、その3分の1の日数で再鑑定を行い、上書きしたんだそう。

死刑にならないと困る

真尋は事務所に戻ってコーヒーを入れていると、大畠先生が外から帰ってきます。

先生は佐々木君と会っていたと言い、真尋が長谷部監督と打ち合わせをしていることを知っていました。

大畠先生は真尋には脚本を書くのが無理だと言います。

真尋は自分にも書けると宣言し、大畠先生の方にも脚本の依頼があったようで、勝負だと真尋ににらみを利かせます。

長谷部監督に立石力輝斗の鑑定を担当した葛城医師に会うことを提案され、2人は半日くらいかけて移動し小さな集落の診療所へたどり着きます。

葛城医師は立石力輝斗を鑑定した時の様子を語り始めます。立石家の両親は近所のスナックへ出かけていて、事件当日はクリスマスイブでケーキが用意されていたと言います。

先に友達の家でパーティーをしていた沙良が帰ってきて、そのケーキを持って力輝斗の部屋に行ったそう。

ケーキを食べながら沙良に中卒で引きこもりだということを馬鹿にされ、自殺してくれと言われ、とっさにケーキを切るための包丁を取り、沙良を殺したと語ったようです。

遺体を隠すために家に火をつけ、1階で両親が寝ていることを知っていながら逃げたと語り、精神鑑定はいらないから死刑にしてくれと懇願したようです。

葛城医師は力輝斗はわざと虐待されていたことを隠していたのではないかと語ります。情状酌量の余地があると判断され、死刑にならないと困る様子だったそう。

何か隠しているようで、精神鑑定の日数を延長するよう明神谷医師に申請しましたが、強制的に打ち切られたのでした。

まとめ感想

香は幼いころに父を亡くし、父方の祖父母に家に引き取られます。父が映画を好きだったことから映画監督を目指したようです。

真尋は世界的に有名な映画監督、長谷部香から脚本の依頼を受けて笹塚町一家殺人事件について調べ始めます。殺された立石沙良が実は嘘つきだと判明し、そのお兄さんの力輝斗に焦点が当たります。

ネタバレ後編では事件の真相や、真尋自身についてもフォーカスが当たっていきます。ぜひ後編もご覧ください！

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