泣けない魚たち-「金さんの魚」-著:阿部夏丸(あべ なつまる)- ネタバレ感想2
2022/01/29
カテゴリー:小説
概要
このページは「泣けない魚たち」の中の3番目のお話、「金さんの魚」のネタバレのpart2となります。
まだ前回のpart1読んでいないよーという方はそちらを読んでから戻ってきていただくことをオススメしています!
前回、僕は見事に50㎝もあるナマズを釣り上げることができました。
今回のpart2で次第に金さんの過去が明らかになっていきます。
part2で「金さんの魚」は完結となります‼
目次
泣けない魚たち
登場人物
・山部金作(やまべきんさく)…あだ名は金さんで、62歳のおじいさん。なまず屋という食堂を経営している。
・水口拓也(みずぐちたくや/僕)…12歳で金さんと友達。
・浦さん…金さんと仲の良い植木屋
草魚
初めて釣ったナマズを金さんのところに持ってきてから20日が過ぎようとしていました。僕は毎日ナマズを釣り、友達と約束がある日も早朝に釣ったり、1日に5匹も釣ったこともありました。
僕はお金はいらないと言いましたが、金さんが友達としてじゃなくて商売のお付き合いだというので、お小遣いを受け取りました。あまり悪い気はしませんでした。
浦さんは怪我が治ったようですが、今まで通り僕が釣ったナマズは買ってやれよと浦さんは言ってくれたそうです。さらに、一緒に釣りがしたいとも言っていたそう。
次の日、いつものように釣り場に行くと、年配の老人がいつもの場所で釣りをしていました。色黒でぎょろりとした目にたじろぎますが、すぐに浦さんだと気づきました。
浦さんは笑い、手招きをします。浦さんの魚籠の中には、立派なサイズのナマズが数匹入っています。夜中から釣をしているんだと言います。
エサはザリガニを使っていて、ぼくにも分けてくれて、隣り合わせに釣りをすることになりました。話をせずともあまり気になりませんでした。
金さんの過去
浦さんに金さんに子供はいないのか聞くと、一瞬険しい顔になり昔の話をしてくれました。金さんは開拓団として満州にわたり、荒れた土地を毎日耕していたそう。
そこから苦労して、一軒のあばら小屋を手に入れ、向こうで女房をもらいます。子供もできますが、そのタイミングで北から兵隊が攻めてきて、家を焼かれ終われたんだと言います。
金さんは1人で日本に帰ってきたことを後悔しているそう。あの金さんの優しい笑顔からは想像つかないような過去だと僕は思います。
浦さんと金さんが一緒に住んでいた時も子供にやさしかったようですが、夜中1人で布団の中で泣いていたようです。
僕はおどけてザリガニのえさはダメだから、小ブナを取ってくるとその場を離れます。振り返ると、浦さんの背中は小さく見えました。
作戦会議
その時、信じられないものを僕は目にします。1m50cmはある魚影が川の中を泳いでいたのです。浦さんのもとに駆け寄り、そのことを伝えます。
浦さんもその魚影を見ると、目を見開いてあれは草魚だと言いました。草魚は急に反転し、深みの中に姿を消してしまいました。
草魚は満州の魚で、あれを俺たち三人で釣るぞと浦さんは言います。
次の日、金さんの家では作戦会議が開かれます。本来、矢作川に草魚はいませんでしたが、数年前に下流に草魚を放流していて、その生き残りなのではないかと浦さんは言います。
テーブルの上には巨大な釣り針が置いてあります。それを太いロープにつないで、クッションとしてその先にゴムを付けるんだそう。
エサは浦さんにもわかりませんでしたが、金さんが中国生まれのチンゲン菜なら釣れるよといい、みんなで笑います。浦さんは金さんのために草魚を釣るようです。
そのことに僕は少し不思議に思いました。金さんは満州の草魚にもう一度逢えたらいいねと言います。
草魚釣り
晴天の日、僕は自転車で矢作川に向かいます。川辺にはすでに金さんと浦さんがいました。浦さんは考えれば考えるほど釣れない気がすると笑います。
ぼくたちは川辺に杭を立て、ゴムチューブを結び、その先にロープとタコ糸と針を付けます。
浦さんはぼくに、キュウリとほうれん草どっちが好きかと聞き、ぼくがキュウリだというと、キュウリを餌にすると言います。
僕は止めますが、草魚が何を好きかなんてわからないからこれでいいんだと言います。金さんは退屈で散歩に出かけ、ぼくと浦さんはじっと川を眺めています。
僕は本当の水の色は何色なんだろうと考えていました。浦さんにそれを聞くと、魚の気持ちになればわかるさと笑います。
しばらく考えて、魚に取って水は空気のようなものなんだと理解しました。水道の水を見ればわかるような答えになぜ満足しているんだろうと僕は不思議に思いました。
ここにいる理由
浦さんはなぜあの草魚がここにいるのかを考えているそう。俺たちに釣られるためにここにいるんじゃないかと僕に言います。
僕はこの釣りをただの遊びだと思っていましたが、浦さんは運命だと信じているようでした。
浦さんが金さんがどこにいるか聞き、ぼくが探してくると金さんを探しに出かけました。金さんは僕たちが草魚を見つけた場所でぼんやり立っていました。
金さんは日本に帰ってこれたからよかったけど、草魚は二度と満州に帰れないんだろうねと彼は僕に言います。
その時浦さんの大きな声が聞こえます。
1対1の戦い
金さんと僕は浦さんのところへ走ると、浦さんはロープを持って踏ん張っていました。まるで牛と戦っているようでした。
浦さんはエサをキュウリからほうれん草に変え、チンゲン菜に変えたとたん一飲みにされたと言います。もし引き込まれそうになったら抑えてくれと浦さんは言います。
ロープは右や左に行ったり来たりし、急に下流に走り出します。しかし、急に反転してこちら側に泳ぎ出し、浦さんは尻もちをつきます。
目の前に草魚の影が現れます。一気に草魚は上流に走り出し、浦さんはチューブを切るよう指示し、浦さんと草魚の1対1の勝負となりました。
浦さんの足は少しずつ川のほうへ引きずられます。またロープがたるみ、ぼくが切られたかと焦りますが、もう大丈夫だと浦さんは言います。
水中に鈍く開く魚体が見え、ぼくと浦さんは興奮しますが、金さんは返事をせずじっと影を見ています。
岸辺まで来たら3人で抑え込もうと浦さんは言います。
金さんの涙
浦さんは僕にロープを渡し、浦さんはシャツを脱ぎます。浦さんは草魚の後ろに回り込むと向こう側に行ってしまいました。
草魚が動くたび、心臓がどきどきして、金さんに大丈夫だよねと聞きますが、返事はありません。ずっと草魚を睨みつけています。
急に浦さんがシャツを広げて、草魚にとびかかります。草魚が走り、僕の腕がきしみます。浦さんは1人でなかなか抑えられない様子です。
浦さんは「金作!」と叫びます。そのとき金さんは走り出し、足元の杭を持つと、草魚の頭に打ちつけました。
何度も何度も打ちつけ、ロープを引っ張る力が弱まっていくのを感じます。草魚は白い腹を見せているのに、金さんはまだ殴るのを止めません。
ぼくが止めてよと叫ぶと金さんは手を止め、泣いていました。大人がこんな顔で泣いているのを僕は初めて見ました。浦さんも下を向いたままです。
恐ろしくなり、僕は2人と草魚を残して泣きながら土手を駆け上がります。できれば1本の釣り糸で草魚と勝負し、生きたまま捕まえたかったと僕は思います。
結末
次の日、僕は1日中家にいて、魚の図鑑を眺めます。夏休みに入ってから、家にずっといるのは初めてなのでした。
草魚を叩きのめした金さんはとても今までの金さんとは違っていました。夕焼けを窓から見ていると、帰りがけの浦さんを見つけます。
僕は玄関を飛び出し、声を掛けようとしますが声が出ません。浦さんが僕に気づき、黙ったまま頭を掻きます。
浦さんは今から金さんのところへ行かないかと誘います。ぼくが金さんは金さんのままかなと聞くと、にやりと笑いうなずきました。
僕は浦さんの運転する軽トラに乗りました。今日は金さんの送別会なんだと言います。昨日満州から帰ってきたんだと浦さんは静かに言います。
店の中では数人の男の人の声が聞こえます。僕が戸を開けると、拍手が聞こえます。金さんは僕に気づくと、赤いトマトを渡し照れくさそうに笑います。
とてもやさしい目をしていました。テーブルには何種類もの草魚料理が並び、壁には草魚の魚拓の下に釣り人・金作、浦野、拓也と書かれていました。
感想
以上で「金さんの魚」は完結となります。
金さんは満州に奥さんと子供を残して帰ってきてから、どこか心も満州においてきてしまったようです。
今回草魚を杭で叩きのめしたことで、満州から帰ってくることができました。
最後には金さんは元の優しい金さんに戻っていて、僕は安心したようです。
草魚釣りに対して、浦さんも金さんもぼくも色々な思いを抱いていたように感じました。とても昔の匂いがしてとても懐かしい気持ちになれる作品でした。
他にも小説のネタバレ感想は更新予定なので、是非SNSフォローしてお待ちください!