泣けない魚たち-「かいぼり」 著:阿部夏丸(あべ なつまる) ネタバレ感想
2022/01/28
カテゴリー:小説
概要
このページでは、「泣けない魚たち」の「かいぼり」のネタバレ感想をしています。
この小説には3つのお話が含まれていて、「かいぼり」「泣けない魚たち」「金さんの魚」で構成されています。
その最初のお話となります。何か昭和の匂いがするような作品で、2つの大きな賞も受賞しています。
課題図書でもよく見かける作品ですね。大人が読んでも子供が呼んでも楽しめると思います!
ぜひネタバレ読んで面白い思われましたら、書籍のほうも読んでみてください!
目次
かいぼり
登場人物
・けんじ(ぼく)…この物語の主人公。常識的な判断であきらやまさあきを止める。
・成瀬あきら…行動的でリーダー格な少年。
・まさあき…珍しいものを見つける天才。
・ゆうじ…おとなしく小柄な少年。クラス内で立場は下の方。
・中野銀造(なかのぎんぞう)…桑原村の町長。
かいぼりの計画
成瀬あきらは、けんじ(ぼく)に明日かいぼりをやろうと言います。僕はすぐにうなずき、心がうきうきとしています。
かいぼりというのは小川をせき止めて、中の水をすべてすくい出して中の魚をまとめて取る方法なのでした。
もう少し人が欲しいという話になり、まさあきとあつしはどうだと僕は提案しますが、あきらはあつしがおしゃべりだからダメだと言います。
かいぼりをする場所は学校で立ち入り禁止にされていたからです。しょうがなくあきらはゆうじを誘おうと提案しました。
ゆうじというのはおとなしく小柄な少年でしたが、勉強ができるのとブリーフをはいていることから学校内での立場が低いのでした。
学校が終わると、あきらとまさあきが先頭を歩き、その次にぼく、そしてそのあとにゆうじが続きました。
あきらは行動的なリーダー格で、まさあきは道中で珍しいものを見つける天才でした。彼らは僕にいつも常識的な判断を求めるのでした。
以前あきらは豆腐屋の庭のザクロをもぎ取ってしまい、そのあとにぼくにこれをどうするか相談します。彼はいつも物事をしてしまってから相談するのでした。
ぼくが木の下に置いておこうと言い、あきらは木の下に置きますが、ゆうじに落ちているザクロを拾って来いと命令し、いばっていました。
ちゃんとゆうじがザクロを拾ってきて、それを均等に分けます。次の日先生にそれがばれお尻を叩かれたときも、泣いていたゆうじにみんなでしたことだから1人で泣くなといいます。
盗み
4人はかいぼりをする矢作川まで歩いていると、後ろから町長の乗る運転手付きの車がやってきます。この村で車を持っているのは町長だけなのでした。
町長は中野銀造(なかのぎんぞう)と言い、ぼくたち4人もこの村の中ではかなり偉い人なのだなと理解していました。
ぼくたちは車が通りすぎるまで横道の草むらに隠れ、通り過ぎてからあきらが車に石を投げます。
その翌日、待ち合わせの橋に僕が着くとみんなはもう集まっていました。ゆうじ以外はブリキの大きなバケツを持ってきましたが、彼だけ粉ミルクの缶でした。
まさあきがゆうじはまだ粉ミルクを飲んでいるんだとバカにしますが、あきらは力がないから小さいのでいいだろとかばいました。
ぼくたち4人はかいぼりをするために、川をせき止める南京袋を町長の家から盗もうとしていました。去年も町長の家から盗み大成功を収めていたのです。
しかし、もしばれれば学校でも大問題となり、カキやザクロを盗むのとはわけが違うのでした。
話し合って、あきらとまさあきが忍び込み、けんじは見張り、ゆうじは2人が窓から投げる南京袋を受け取ると決めました。
南京袋の強奪
僕らは泥棒をする際に決めているルールがあって、それは証拠を残すことでした。以前カキを盗んだ時も、持ち出した梯子をそのままにして帰りました。
その後事件は発覚し、正座させられましたがそれはそれで楽しいのでした。逆にばれずにすぎてしまう方が気持ち悪く後味が悪いのでした。
しかし、今回は違ってぼくは絶対にばれたくないのでした。2人が忍び込んだ後、ぼくとゆうじは2人が盗み出すまで外の草むらで待っていました。
すると、道の向こうから町長の車がやってきてしまいました。合図の猫の鳴き声をしますが、向こうからは何の返事も返ってきません。
倉庫の中に車が入り、ぼくたちがもう捕まったかなと心配していると、上から南京袋が落ちてきます。
あきらとまさあきは次々に袋を投げ、ぼくたちは先に川へ逃げました。先についたぼくたちがのどを潤すために川の水を飲んでいると、上からあきらとまさあきが飛び込んできて大きな水しぶきが上がります。
2人はどうやって逃げたのか自慢げに話しています。
大量の魚
ぼくたちは川を音を立てながら歩いて上流へと魚を追い込みます。ハヤの群れやカエルやザリガニが逃げていくのが見えます。
ある程度追い込めたら、南京袋に土を詰めて土の堤防を作ります。20分ほどで完成し、せき止めた水の中のごみをどかすと中には数えきれないほどのいろいろな種類の魚がいました。
4人は中の水を掻きだし、魚たちは背中を出して暴れまわっています。僕たちは同時に魚にとびかかり、手当たり次第に魚を捕まえます。
あきらは一番大きな鯉だけを追いかけまわしています。まさあきは大きなナマズを見つけ、あきらは南京袋でナマズを捕まえます。
見つけたのはまさあきだからと、あきらはナマズを渡してくれました。ゆうじは隅っこのほうでタナゴという小さな魚を取っていました。
ぼくがゆうじにもっと大きいのとればいいのにと言いますが、水槽で飼うときれいなんだと僕に言います。ぼくは魚を飼うという発想がなかったのでとても驚きます。
ゆうじは嬉しそうにタナゴの種類を僕に説明してくれました。僕はそれにも驚き、とても感心します。
お化け水車の由来
あきらはやっと捕まえた大鯉を自慢げにみんなに言う様子が面白く、4人は大笑いします。
疲れて土手に座った後、まさあきがゆうじにどうして矢作川の水車をお化け水車というか知ってるかと聞きます。まさあきがゆうじをまたからかい出し、ぼくとあきらはにやにやしていました。
ゆうじはお母さんからここには女の幽霊が住んでいて、夕暮れになるとすすり泣く女の声がするから立ち入り禁止になっているのだといいます。
あきらたちは笑いをこらえるのに必死です。ぼくは以前まさあきからお化け水車の真相を聞いていました。
ここは逢い引き(男と女が密会する場所)の有名な場所で、大人たちは子供たちに近寄らせないようにお化けが出るという話をでっちあげたのでした。
そこへ男が一人やってきます。それは町長の銀造でした。あきらはおどおどせずに普通にしてろと言いますが、僕は河原へ降り、まさあきも逃げ道を確認しています。ゆうじは立ちすくんでいました。
ウナギ
銀造は僕たちに気づき、あきらに「かいぼりか」と低く太い声でいいます。あきらも「うん」と目をにらみながら答えます。
どれだけ取れたか見せてほしいと銀造が南京袋を手にし、ペンキで書かれた番号を目にします。ぼくは絶対に叱られると思いました。
しかし、銀造はいいナマズだと嬉しそうに言います。その笑顔にぼくたちは混乱します。銀造の笑顔を見たのはこれが初めてなのでした。
銀造は若いころ自分もかいぼりをしたと言い、ウナギは取ったかと聞きます。とってないというと、銀造は僕たちに川に入って足で泥をこねて見ろと言います。
4人はその命令にわくわくしながら従います。踊っているみたいでおかしくなって僕たちは大笑いします。銀造も大笑いしながらもっともっとだと嬉しそうです。
しばらくすると、息ができなくて苦しくなったウナギが呼吸をしに出てきました。銀造はすばやくウナギをつかみ土手に打ちあがりました。
ウナ造
その後さらに2本ウナギを捕まえ、銀造はウナギを持って帰れと言いますが、あきらは町長がとったんだから町長が持って帰れといいます。
町長は持って帰ろうといい、すまないが南京袋を1つ恵んでほしいといい、ぼくたちはドキドキします。
来週の日曜日に川が大騒ぎになる、魚の取り放題だといい、銀造は帰っていきました。ぼくたちは不思議に思いました。
まさあきは町長が南京袋のことを気づいていたんだろうなと言い、みんなそれにうなずきました。
それ以来、ぼくたちはかいぼりの話ばかりしていて、あきらは銀造のことをウナ造と呼んでいました。
道を歩いていて町長の車が見えた時もわざと道の真ん中を歩いたりしましたが、そっけなく走り去っていってしまいます。
大人は1日たつと忘れてしまうのかなと、さみしそうにあきらは言います。
川の水がない
それから1週間が過ぎ、朝ごはんを食べている僕にあきらが川の水がないと教えに来ました。僕は家を飛び出し、川へ向かうと、村の人達が集まってきていました。
まさあきは興奮した様子で川を見ていて、ゆうじはおびえていました。川の水は干上がってしまい、所々にある水たまりに魚がうろうろしています。
ぼくたちが混乱していると、橋の上で村人たちに南京袋を渡している銀造がいました。そこへぼくたちが駆け寄ると、町長はよく来たなと嬉しそうです。
あきらが理由を尋ねますが、返事も適当に僕たちに南京袋を押し付けます。まさあきが魚を取っていいのか聞くと、「思う存分とれよ、これが最後だから」と言い残し、村人たちに南京袋を渡しに行きます。
僕はこれで最後という言葉が気になりましたが、みんな魚を捕りに行ったので、ぼくもたくさんの魚を取ります。この川ではすべてが人間の思う通りなのでした。
しかし、だんだん気持ちが冷めてきて、ゆうじとなんか違うよなと話します。まさあきにも聞くと、これはずるいんだよと答えました。
あきらも調子が狂っちゃってという言葉にうなずきます。僕たち4人は早々と川を引き上げます。
裏切られた気持ち
その3か月後、これが川の埋め立てのための測量だと知りました。そこから半年工事が行われ、完全に川は道路となってしまいます。
春になり、完成式が行われ、花火が打ち上げられお汁粉屋お菓子がふるまわれます。スピーカーから町長の声が聞こえます。
その後酔っぱらった大人たちの拍手と歓声が聞こえます。あきらは裏切られたような悔しい気持ちを抱えているようでした。
ぼくもウナギを取ってくれた銀造と今話している銀造は別人だと感じます。ゆうじは用水路の底の水たまりにいるカエルがこれからどうするのだろうと言います。
あのカエルは一生ここから出れないのだろうと珍しく怒っていました。みんないろいろな思いを抱えてここに立っていました。
ぼくは用水路を見ながら全く違うことを考えていました。
結末
図工の時間に一番大切なものを書くという授業で、みんながいろいろなものを書く中、ぼくは一番大切なものが決められず泣いてしまいます。
みんな見つからず泣いたと思っただろうが、実は決められなかったのです。自分でもなぜ今それを思い出したのか不思議でした。
あきらは用水路に向けて石を投げ、驚いたカエルが上流に逃げます。どこまで行っても土手に上がれないことをカエルは知らないだろうと僕は思いました。
感想
以上となります。少し悲しい結末となってしまいましたね。
かいぼりをして子供のような笑顔を見せていた町長と、川を埋め立てて演説をする町長はどちらが本当の姿だったのでしょう。
大人になると一番大切なものというのを見失ってしまう気がします。生きていくために必死で他のことに目を向けることが出来なくなってしまいますよね。
懐かしい風景と共に、大切なものって何だろうと考えさせられる作品でした。
他にも小説のネタバレ感想は更新予定なので、是非SNSフォローしてお待ちください!