【ネタバレ感想】「木野」「女のいない男たち」 著:村上春樹(むらかみはるき)

2022/05/12

カテゴリー:小説

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概要

このページでは「女のいない男たち」という短編集に収録された2つのお話、「木野」「女のいない男たち」のネタバレ感想をしています!

同じ短編集に収録された4つのお話のネタバレも記事ありますのでそちらも是非ご覧ください!!

今回のお話は妻に不倫され会社を退職した「木野」がバーを開き奇妙な体験をするお話と、誰でも女のいない男たちになりうるというお話となっています。

目次

木野

登場人物

・木野…妻と別れ、バーを経営する。元スポーツ用品店の販売職。

・木野の叔母…元々喫茶店を経営していて、店を木野に貸し出す。

・カミタ…木野の店によく来て本を読んでいる。無口な男。

妻の不倫

木野(きの)の店には坊主頭で30代前半の男がよく来ていました。その男はいつもビールを注文して分厚い本を読んでいます。

ビールを飲み終えるとウイスキーを注文するのがいつもの流れでした。その男は無口で、木野はその男の名前すら知りません。

以前、木野はスポーツ用品を販売する会社に17年間勤めていました。会社を辞めたのは一番親しかった同僚が妻と不倫をしていたことがきっかけでした。

木野は夫婦関係が良好だったと思っていました。出張から1日早く家に帰ると、いつも寝ているベッドに同僚と妻が寝ているのを目撃します。

そのまま家を出て、二度と家に戻ることはありませんでした。そのまま会社へ退職届を出しに行きました。

別れた妻や同僚に対する怒りの感情はなぜか沸いてきませんでした。

店を開いたきっかけ

木野には独身の叔母がいて、彼女は喫茶店を経営していました。叔母から店を継いでくれないかという話があったので、引き継いでバーを開きます。

店の名前は「木野」で、広告も看板も出さなかったので最初の1週間は誰も来ませんでした。

灰色の野良猫が次第にやってくるようになり、木野はエサをやったり出入り口を作ってやったりしました。

ネコが訪れるようになってからお客さんもやってくるようになり、売り上げから叔母へ家賃を払えるようになります。

2人の男

ある雨の日、店内には坊主の無口な男と2人連れの客がいました。2人の男たちは次第に喧嘩をし始めてそれを見た無口な男はいらだっているようでした。

木野は2人連れの男たちにもう少し声を小さくしてもらえないかというと、木野に対して突っかかってきます。

それを見た無口な男は「自分が注意してくれないかと頼んだんだ」となだめ、自分の名前をカミタと名乗りました。

木野は初めて彼の名前を知ります。

2人連れの男たちはカミタを外で話そうと連れ出し、しばらくするとカミタが一人で戻ってきました。

彼はもう二度と彼らは姿を見せないでしょうと言います。カミタが帰った後、外を見まわしますが血が流れた様子はありません。

常連女性客

その1週間後、木野は店の女性客と寝ました。その女性は何度か店にきていて、いつも同い年ほどの男と一緒でした。

時々女性は話しかけてきて、木野が会話をします。それを見て連れの男は嫉妬心を抱いているようで、木野はあまり関わりたくないと思っていました。

木野は嫉妬心とプライドに今まで痛い目にあわされてきたのです。ある夜、女性は1人で店を訪れ、ブランデーを3杯飲み閉店までいました。

女は服を脱ぎ、ブラジャーの下のあざを見せ、いつもの連れの男やられたのだと木野に言います。他の場所にもこのような痕があると言います。

木野はこの女に深入りしてはいけないと感じましたが、女は抱かれることを求めていました。女と2階に上がり服を脱がせます。

彼女の乳首のすぐ横や性器のすぐわきにも同じような痕があり、木野はそんな残酷なことができる男の気持ちがわかりませんでした。

女はその日以降も、男と共に店を訪れ、いつものように短い言葉を木野とかわします。女はまたいつか1人でこの店を訪れ、やけどの跡を見せるだろうと木野は思いました。

カミタの指令

夏の終わりに離婚が正式に成立し、妻と久しぶりに顔を合わせます。妻は木野を傷つけたことを謝ります。

秋になり、猫が姿を現さなくなります。その代わりに家の周りにを見かけるようになりました。

それも違う種類の蛇で1週間に3匹の違う蛇を見かけ、木野は猫のための出入り口をふさぎました。

ある夜、カミタが店を訪れます。カミタは「この店を閉めざるを得なくなってしまって残念だ」と言います。木野は不思議に思いますが、彼によるとここから多くのものが欠けてしまったんだそう。

木野は店を見渡しますが、普段と違うところは見えません。ただ、いつもより活力と色彩を失ったように感じます。

カミタはしばらく店を閉めて遠い所へ行き、頻繁に移動するよう木野に伝えます。加えて月曜と木曜に木野の叔母に絵葉書を書くよう言います。

彼は叔母のことも知っているようです。木野は彼を信じて店を閉め高松へ向かいます。

結末

高松駅のビジネスホテルで3日ほど過ごし、映画をみて叔母へ絵葉書を書きます。カミタの指示通り絵葉書には宛名以外何も書きませんでした。

その後熊本で3日過ごし、向かいのオフィスで働く人たちを眺めていました。彼らは時々とても楽しそうな表情をしていて、どうして面白味のない作業をしていてそんな愉快になれるのか不思議に思います。

木野はその様子を見て少し不安に感じます。絵葉書を書く曜日になり、木野は自分を抑制できず絵葉書の空欄に文章を書いてしまいました。

目を覚ました時、誰かがホテルのドアをノックしていました。木野には誰がドアをノックしているのかわかりました。

ノックしているのはドアではなく、彼の心の扉で、木野は妻に不倫され実はとても深く傷ついていたのだと気づきます。

女のいない男たち

登場人物

・僕…ある時電話で一人の女性の死を知らされる。

・エム…自殺した女性。

エム

夜中の1時過ぎに電話が鳴り、男から一人の女性が自殺をしたと伝えられます。その男は彼女の夫なんだそう。

僕はなぜその男が自分のことを知っていて、電話で知らせてきたのか分かりませんでした。僕自身も彼女が結婚していたことすら知りません。

これで僕が着き合った女性の中で自殺をしたのは3人目となりました。その女性の名前は「エム」で、14歳の時に出会った女性だと僕は仮定します。

生物の授業中、消しゴムを忘れた僕に自分の消しゴムを半分にして分けてくれたのが彼女でした。

実際にエムと会ったのは14歳よりずっと後のことでしたが、彼女の中にはまだ14歳の少女を見出すことができました。

交わっているときにエムは老いたり、少女になったりして、そんな彼女を僕は愛していたのでした。

2番目に孤独な男

エムの死を知った時、自分のことを世界で2番目に孤独な男だと感じました。1番は彼女の夫で、1番と2番の間には深い溝があるんだろうと僕は感じます。

誰にでも女のいない男たちになる可能性があり、どれだけ切ないことなのかは女のいない男たちにならないと分かりません。

女のいない男たちになるためには1人の女性を深く愛して、彼女がどこかへ行ってしまえばなることができます。

結末

僕とエムが付き合っていたのは約2年で、月に2、3度会っていました。

彼女はエレベーター音楽、エレベーターでよく流れているような音楽が好きで、僕とエムが寝るときはいつもその音楽を流していました。

エムがエレベーター音楽を好きな理由は自分が広々とした空間にいるような気持になるからなんだそう。

1人の女性を失うということは全ての女性を失うということでもあり、ぼくらは女のいない男たちになります。

エムが天国で僕のことを思い出してエレベーター音楽と共に幸せに暮らしていることを僕は願います。

まとめ感想

「木野」では妻に不倫された木野(きの)がバーを開いたり不思議な現象と出会うことで、自分が実は傷ついていたということに気づくというストーリーでした。

あまりに深いショックだと自分でも傷ついたかどうか気づかないことありますよね。気づかない方が気持ちは楽ですが、受け入れて乗り越えていかないと次へ進めなくなってしまいます。

「女のいない男たち」は短編集を出版する際に村上春樹さんが特別に書き下ろしたお話になります。

少し難しいお話でしたが、愛していた女の人を失うことの悲しさを感じることができました。

以上となります。同じ短編集の中の4つのお話のネタバレもしてますので、是非そちらもご覧ください!SNSもフォローお願いします!