「赤ひげ診療譚」ネタバレ感想 -著:山本周五郎(やまもとしゅうごろう)-

2021/09/09

カテゴリー:小説

赤ひげ診療譚

概要

医者見習いである保本登が貧しい医院で様々な患者の治療をするお話です。

初めは貧しい医院に配属された自分の不運を呪って、まったく積極的に治療を行いませんでした。

しかし患者たちは様々な事情を抱えていて、その患者たちの死や葛藤に刺激され、登自身が変わっていきます。

このページでは全部の8つのお話のうち「狂女の話」と「駈込み訴え」の2つをネタバレします。

目次

狂女の話

登場人物

保本登…主人公。長崎への遊学経験をもち天野の後ろ盾もあったが、貧乏な小石川診療所に配属される。

新出去定(にいできよじょう)…別名赤ひげ。貧乏な医院を経営している。

保本良庵…登の父、町医者をしている。

法印天野源伯…良庵の知人。幕府の表御番医者をしている。登を赤ひげのところに紹介する。

津川玄三…登と交代で小石川診療所を出ていく見習い医者。

森半太夫…登と同じ見習い医。27,8に見える痩せた陰気な男。

おゆみ…金持ちの娘。22.3歳。精神病を持ち殺人を犯し、小石川療養所で療養中。

お杉…おゆみの女中。主人公の登と仲良くなる。

赤ひげとの出会い

主人公の保本登は、津川玄三という男に小石川養生所へ案内されます。

津川によると患者は貧乏な人ばかりで、医者の給与もかなり低いそうです。

新出去定のもとに案内されると、ここで働くようにと登は言い渡されます。彼はエリート街道を進んできたので、とても不服そうです。

自室も牢屋のようで、医者や患者の服装も粗末なもので、新出去定、赤ひげがそのようにきめたそうです。

同じ見習い医者の森半太夫はこの環境を受け入れているようです。

おゆみについて

津川から、おゆみについて話を聞きます。彼女は婚約破棄されてから精神を病み、2人の若い男をころしたそうです。

殺し方も残酷で、色仕掛けで無抵抗にしてからかんざしで殺していました。

親の力もあり、娘は罪になりませんでしたが、赤ひげのところにひきとられ、精神病の治療を受けているそうです。

お杉はそんなおゆみの女中で、登は彼女に自身の境遇を愚痴をこぼしたり、おゆみの病状に興味を持ったことから仲良くなります。

お杉と仲良くなる登

登は赤ひげから呼び出され、登が長崎で遊学中に得た資料を提出するようにといわれます。

それは、彼の将来を約束する業績で、ほかのものに公開するとその価値を失ってしまうものでした。

登はそれに対して反発し、赤ひげともめ、院内の腰掛で酒を飲んでいました。

そこにお杉が現れ、登と話をします。お杉は登をいさめ、酒をとりあげ帰ります。

そのころからお杉と徐々に仲良くなり、キスまでするような仲になりました。

お杉との久しぶりの密会

お杉が風邪をひいてしまい、登はお杉としばらくぶりにあうことができました。以前預けたお酒も返してもらい、機嫌よく飲んでいました

次会うときにお杉はおゆみについて話してくれるといってくれていて、お杉はおゆみについていろいろ話します。

おゆみは9歳の時に、30歳くらいの男に性的ないたずらをうけ、人に言うと殺すと脅されてしまったそうです。

その後、ほかの男から同じようなことをされたり、自分の母親が男に殺されたことから、殺されるくらいならいっそのこと自分が殺してやると思うようになりました。

そこまで話を聞いて、登は話をしているのが、お杉じゃなくておゆみだと気づきます。

しかし、逃げようにも酒に入れられた薬のせいで動くことができません。おゆみは登にうまのりになり、登は殺されそうになります。

間一髪のところで赤ひげが助けにきて、登は助かることができました。その事件から登は赤ひげに対しての印象を少し変えます。

駈込み訴え

主な登場人物

保本登…主人公。長崎への遊学経験をもち天野の後ろ盾もあったが、貧乏な小石川診療所に配属される。

新出去定(にいできよじょう)…別名赤ひげ。貧乏な医院を経営している。

六助…有名な蒔絵師。引退後は柏屋という宿でひそかに暮らしていた。

金兵衛…柏屋の主人。六助の知り合いだった。

松蔵…長屋の差配(管理人)で、老人。おくにに頼まれて、金兵衛へ六助の孫たちを連れて行った。

富三郎…おくにの妻で、怠け者。松蔵の長屋に住んでいた。

おくに…六助の一人娘。富三郎の妻。

  

六助の死

登は赤ひげに連れられて、六助という男の診断に付き合います。あかひげによると死は秒読みで助けることはできないそうです。

六助は蒔絵師としてとても有名な男で、引退後は柏屋という宿でひそかに暮らしていたそう。

その後六助はなくなってしまいます。六助は身寄りがいないそうで、だれも看取ってくれませんでした。

六助の身内

登はあかひげの外診に付き合っていましたが、その途中で男に急患だから来てほしいと頼まれます。

あかひげに自分は用があるから代わりに行って来いといわれ、男についていきます。その男は柏屋の主人で、金兵衛という名でした。

金兵衛に連れられて行くと、六助の4人の孫が待っていました。そのうちの長女のともが高熱を出して寝ていました。

子供たちはつぎはぎだらけの服で、やせ細っていて顔色が悪そうです。ともはただのかぜでしたが、このままだと栄養失調で酷い咳になる危険がありました。

金兵衛は商売がうまくいってないのに、このような厄介なものが持ち込まれてうんざりだと愚痴ります。

金兵衛の話

金兵衛が詳しいことを話してくれました。

六助には身寄りがないと思っていましたが、ある日松蔵という老人が4人の兄弟を連れてきて、その子たちは六助の孫だといったそうです。

老人に話を聞くと、老人は長屋を経営していて、そこに富三郎という男の一家が引っ越してきたそう。

富三郎は怠け者で借金ばかりしていて、妻は不満をこぼすことなく内職をしていたのに、妻に対して乱暴をしていました。

その妻はおくにという名前で、父は生きていましたが、わけありで絶縁になっているそうです。

そんな時、おくには夫が仏像を盗んだことを知ります。その仏像の盗人を訴え出るとお金がもらえるそうだったので、そのことを松蔵に相談しました。

松蔵はそうしたほうがいいと勧め、実際におくには訴え出ました。

しかしお奉行では、おくにが夫を裏切ったことを倫理に背いていると判断し、彼女は牢に入れられてしまいました。

その後、おくにの伝言で松蔵に事情を話して子供たちを預かってもらうようお願いし、今に至るようでした。

赤ひげの診断

その後赤ひげがきて、ともを診察しました。六助はお金を残していると赤ひげはいいます。

赤ひげと登はそのまま奉行に向かい、おくにという女の診察をするから案内するよう伝えます。

奉行でもあかひげは有名らしくすんなり通れました。おくにと会い、あかひげは色々尋ねますが反応がありません。

そこで登がおくにの子供たちのことを話してあげると、おくには目を開いて子供たちの安否を尋ねます。

登は子供たちのことや、おくにの父親である六助の死に際についても話してあげた。

おくにの話

次第におくには自らの身の上話を始めます。

おくには六助の1人娘で、おくにの母親は夫の若い弟子(富三郎)と駆け落ちし、おくには里子に行っていました。

その後父親に引き取られましたが、2年後に母親に連れ出されてしまいます。

また父親の六助が迎えに行きますが、ちょうど母親の欲しい年頃だったのでおくには拒否します。

六助は困ったことがあればおいでといい、素直に去ります。

おくにが16歳になったタイミングで、おくにの母親は富三郎と夫婦になるよう泣きつきます。

母親は自分が老い、富三郎が離れていくことを恐れたのでした。実は彼女は富三郎を引き留めるためにおくにを引き取ったのです。

おくには母親と一緒にいたかったので、富三郎と夫婦になりました。しかし、母親は富三郎と夫婦になったおくにに嫉妬するようになります。

夫婦となって2年後、おくには母親と富三郎の男女の行為を見てしまいます。

それまで男女のそういうことをしらなかったおくには吐き気を催し、嘔吐します。抱いた感情は嫉妬ではなく、汚らわしさと厭悪でした。

おくににその現場を見られたので、母親は家を出て、住み込みの奉公にいってしまいます。母親は全く帰りませんでしたが、富三郎とはしばしばあっているようでした。

その後母親が病に落ちたことを富三郎から聞きましたが、死ぬ前におくにに会えば未練と嫉妬で死にきれない思いをするといい、会いたくないと富三郎から聞きました。

六助はおくにの母親が死んだと聞き、富三郎が六助の弟子で母親と悪いことをして逃げたということを正直に手紙でおくにに伝えました。

ですが、いまさら父親の世話になれないと、六助と一緒に来てほしいという申し出を断りました。

それでも六助は時々おくにを訪ね、いくらかの銀をわたして帰りました。その頻度は柏屋になにをするでもなく泊まりに来たタイミングと同じでした。

六助は世間からも自分からも隠れたくなるようなことがあったようでした。

蒔絵氏として、江戸中に知られた名前も、作った品を御三家に買い上げられるような腕も捨て、見知らぬ老人として安宿に泊まり、

うちぶれた客の中で話を聞いて黙って酒を飲んでいました。

そういった場所でしか慰められなかったほど、六助の悲しみは深く、悲しみに打ちひしがれます。

六助は妻と弟子と逃げられ、妻に連れ出された娘を呼び出したのに断られ、自らの人生をつまらないものだったと振り返ります。

その後

翌日あかひげはおくにを牢から出させ、おくにに銀を5両渡しました。

牢の係の島田越後はあかひげが診療していて、彼が不倫していることをしってました。それを出しにして、島田を脅し、おくにを牢から出させたのです。

さらに島田から10両せしめ、そのお金もおくにのためにつかうと語ります。

あかひげは自身のやり方が卑劣だと自負しますが、その顔もちはすがすがしいものでした。

感想

どちらの話も回想が多く、非常にボリュームがある内容でした。登場人物も多く、人間関係も複雑です。

赤ひげの頼もしさも少し垣間見えて来て、展開もテンポよく進んでいき、かなり読んでいて楽しかったです。

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